香る絵本、食べられるシートを宇宙へ 「日本で最も宇宙に近い高校」大分県立国東高校SPACEコース
宇宙港(スペースポート)としての活用が計画される大分空港。そこから車で約10分に位置する大分県立国東(くにさき)高等学校は2024年度、九州の公立高校で初めて宇宙分野に特化した「SPACEコース」を開設した。同コースが掲げるのは、宇宙の視点から地球の課題を考えられる人材の育成である。
7月10日、同コース2年生が1学期に取り組んだ「SPACE LIFE EXPLORER」と題する探究活動の発表会が開かれた。生徒たちは宇宙生活の課題を自ら見つけ、宇宙でも地上でも使える商品の開発に取り組んできた。まだ誰も答えを持っていない「宇宙」というテーマの下、生徒たちが主体的に探究する姿がそこにあった。

宇宙生活の困りごとを捉え、アイデア創出からプロトタイプ作成まで
生徒たちは5月から約2カ月間、四つの班に分かれて、班ごとに宇宙生活の課題を自分たちで見つけ、それを解決する商品アイデアを練り、プロトタイプ(試作品)の作成や実験を重ねてきた。発表会には外部講師として、1学期の活動に伴走してきた浅野高光さん(Space Food Lab.取締役)が招かれ、各班のプレゼンテーションと質疑応答が行われた。
1班が着目したのは、国際宇宙ステーション(ISS)では洗濯ができず、においがこもるという課題。柑橘系の香りと甘みで気分をリフレッシュできる「美味紙(おいしーと)」と名付けたシート状の食品を考案した。「宇宙では荷物が少ない方がよいと聞いたので、薄いシート状にした」という工夫が語られた。浅野さんからは、保存性を高めるには水分活性を下げるとよい、と専門的な助言があった。
2班は、閉鎖空間でのストレスに対し、日本の四季を五感で感じられる絵本「フォーシーズンブック」を提案。紙面には季節の花の絵や写真が載せてあり、香りや音も盛り込まれている。試作を3回重ね、香料をマイクロカプセル化して印刷インキに混ぜる企業の技術を調べ、実現可能性まで検討した。

3班は洗濯できない環境でも快適に過ごせるTシャツをテーマに、シルクや綿など素材ごとの速乾性・吸湿性を比較する実験を実施。4班は汗のにおいを抑えるスティック状の練り香水を考案した。蜜蝋(みつろう)の融点を調べながら試作を繰り返し、「LUNA BALM」と名付けた。微小重力の環境では液体が飛び散って扱いにくいため、スティック状であることに意味がある。浅野さんは「柑橘系は宇宙飛行士が最も好む香り。かゆいところに手が届く商品だ」と評価した。

食品、印刷、繊維、化学。宇宙生活での課題という共通テーマの下、様々なアプローチの探究活動が展開された。浅野さんは「宇宙は複合的なテーマ。だから、誰でも自分の興味を入り口にポジティブに取り組める」と語る。また、限られた資源の中でいかに快適に暮らすかという宇宙での困りごとは、そのまま地球の課題とも地続きだ。生徒たちの視点が宇宙と地球の間を何度も往復していたことが垣間見える発表だった。
答えのないことを追究する探究活動
審査は、生徒と浅野さんが各班の発表に点数を付ける形式で行われた。その結果、優秀賞には2班の「フォーシーズンブック」が選ばれた。生徒からは「本から香りがするという発想がいい」「音と匂いで四季を感じるのがよい」などのコメントが寄せられた。2班代表の丸山虎之丞(とらのすけ)さんは「最初の案を一度潰して今の案にした。いろいろ考えていくことの楽しさに気づけた」と振り返った。丸山さんたちは当初、宇宙船内では水を使った拭き掃除ができないことに着目し、汚れがつかない仕組みの開発を目指していたが、材料費の壁にぶつかって方向転換し、「フォーシーズンブック」に至った。浅野さんは「作ることより潰すことの方が難しい。その過程でいい物を作ってきた」と称えた。
その後の講評で浅野さんは「皆さんが宇宙というテーマに本気で取り組んできたことが伝わってきた。宇宙は、先生たちも答えをもっていないテーマ。しかしそれこそが良い点で、宇宙をテーマにすると、皆さんが自分でやらなければ何も解決しない。それが本来の探究である」と語った。その上で、「探究とは、分からないことを徹底的に追究し、それを面白いと感じること」と、答えのない問いに向き合う姿勢こそが探究の原動力だと生徒たちに伝えた。

探究活動における伝えることの大切さ
発表会の最後、生徒を代表して4班の藤川季々(きき)さんが「私たちが考えてきた課題は一般の方が知らないことでもあり、バックグラウンドをしっかり説明して初めてアイデアは完成すると感じた。浅野さんの『探究とは、分からないことを追究すること』という言葉が心に残った。国東と宇宙について考えを深め、私たちにしかできないことを、私たちなりのアイデアで楽しみながら探究していきたい」と振り返った。
今年度から2年生普通科SPACEコースのクラスを担任する阿南日菜子さんは「浅野さんなど外部の方の力を借りながら進めている」と日ごろの指導を振り返る。さらに、探究活動と他教科の学びとの往還の重要性も次のように語ってくれた。「探究活動には発表会が欠かせない。どれだけ良い探究をしても、伝え方次第で相手への伝わり方は大きく変わる。発表する力は英語や国語など他教科でも身につけてほしいし、逆に探究で練習した発表の仕方は他教科でも生かせる。探究は探究だけで完結するものではなく、他教科での学びは探究に、探究で身につけたものは他教科に生かしていけるということを生徒に伝えていきたい」
浅野さんも「先生方も分野にとらわれない学習支援の方法を見出していかねばならない」と指摘した。

SPACEコースの探究から広がる世界
「フォーシーズンブック」を提案した班の一人で、岐阜県出身の丸山さんは「考えることの難しさと同時に、考えることの楽しさもわかった」と今回の探究活動を振り返る。宇宙飛行士を目指して同コースに入学した丸山さん。「将来、いろいろな国の人たちと宇宙関係の仕事をするために、周りの価値観を知りたい」との思いを胸に、8月に約10カ月の海外留学に旅立った。
福岡県出身の藤川さんは、「LUNA BALM」を考案した4班の一人。「自分のやりたいことをしないと探究は楽しくない。香水をつけると気分が上がるという私たちの感性を宇宙と結び付けた。商品化したら地上でも宇宙でも使えると思うとワクワクする」と感想を述べてくれた。学校の教員を志しており「SPACEコースでの探究活動を私自身楽しめている。こうした学びを将来子どもたちに届けたい」と語った。

2学期からは、英国の姉妹校リチャード・ランダー・スクールとの共同探究活動が始まる。同校のあるイングランド南西部のコーンウォールには、宇宙港として整備が進むニューキー空港がある。共同探究活動では、国東高校とリチャード・ランダー・スクールの生徒による混成グループを組み、共通のテーマについて互いの学校で探究を進め、オンラインで発表や意見交換を重ねる予定だ。
まだ誰も答えを持っていないテーマは、生徒たちに、自分で問い、自分で考え、自分で確かめる、という経験をもたらした。食べられるシート、香る絵本、速乾Tシャツ、練り香水。今回の探究活動で生まれた試作品はどれも、宇宙のためだけのものではない。限られた資源の中でいかに快適に暮らすか、という問いは、地上での生活の課題でもある。国東から宇宙を見上げ、宇宙から地球を捉え直す。SPACEコースの生徒たちが往復させてきたまなざしは、2学期には海を越えて英国へ、そしてその先へと広がっていく。
関連リンク
- 大分県立国東高等学校「SPACEコース特設サイト」
- 大分県立国東高等学校