「誰かのため」でつながるプロジェクト 芝浦工大附属中×日本科学未来館、Win-Winの探究連携
科学館や博物館は全国各地に点在する「知の宝庫」だ。義務教育だけでは得られない学びや、探究のきっかけがふんだんに詰まっている。しかし近年、人材不足や維持管理費の高騰などを背景に苦しい運営状況に置かれている館も少なくない。そうした中、館と学校の双方がメリットを得られる形で、新たな連携の形を模索した取り組みがある。連携先となる公的機関などの「探究疲れ」の声もある中で両者はどのように壁を乗り越え、生徒に挑戦の機会を与えたのか。芝浦工業大学附属中学高等学校と日本科学未来館の例からその舞台裏に迫った。

4つの探究で「アイデアを形にする力」を育む
東京の食を支える豊洲市場からほど近い芝浦工大附属中学高等学校で、同校が中高を通じて注力する探究学習の成果を披露するイベント「SHIBAURA探究Day」が2月21日に開催された。ホールでのプレゼンテーションや各教室でのポスター発表を通じ、生徒一人一人が自身の取り組みを熱く語る姿を、保護者や教育関係者らが見守った。

同校は学年を追うごとに探究のレベルを引き上げるべく「4つの探究」を掲げている。基礎固めとなる中学1年~3年の前半では、「Information Technology(IT)」プログラムを通じて情報技術でアイデアを形にするとともに、「Global Communication(GC)」プログラムで国際的な視点による課題解決力を養う。
中学3年後半の「総合探究」では、IT・GCでの学びや工業大学付属校ならではの強みを生かしながら、理工系の知識で社会課題解決のプロトタイプづくりに挑戦。仕上げとなる高校1・2年の「工学探究」ではプロトタイプの実装検証という、より高度な実践段階へとステップアップさせている。

科学館と連携、ITスキルで「新しい」を形に
今回、同校中学1年生(取材当時、以下同じ)が探究学習で手を組んだのは、同じ東京都江東区にある日本科学未来館(以下、未来館)だ。これまでは近所にありながら見学に行く程度の接点だったが、学校側からの熱心な働きかけで本格的な連携が実現した。
しかし、プロジェクトの道のりは決して平坦ではなかった。教員からの打診を未来館は一度断っている。教育現場のニーズが国の施設としての使命と一致しなかったからだ。それでも諦めきれなかった教員の熱い思いにより、未来館のミッションとすり合わせるための話し合いの場が持たれた。その末に導き出された一つの解が、ITの授業で身につけたスキルを使い、SNSを見た人が「未来館へ実際に行きたい!」と感じるようなCMづくりのプロジェクトだった。

プロジェクトを主導した教諭の小川賢一郎さんは「誰かのための『新しい』をつくる」ことをテーマに掲げ、「芝浦の生徒だからこそできる提案を追求した」と語る。その指導は徹底して「社会人仕様」だ。あえて褒めないこともあれば、「プロの作品と並べて選んでもらえると思うか?」と問うこともあるという。手が止まっている生徒がいても安易に介入はしない。大事なのは自分でどこまでできるようになったかだ。「企業から出資の申し出が来るレベルまで到達させたい」という先生方の熱意は、生徒たちのマインドを大きく変えていった。

宇宙の旅を1分に凝縮!問いかけるCMの誕生
生徒たちのCMは未来館スタッフ総出での本気の審査を経て、最優秀賞「日本科学未来館賞」などが探究Dayで発表された。輝かしい賞を手にしたのは伊藤奏吾さん(同校中学1年生)。館内の宇宙関連展示に焦点を絞り、「宇宙への旅」をテーマにCMを制作した。単なる施設紹介にとどまらず、クライマックスでは伊藤さんが展示から感じた「ビッグバンの前に何があった?」「どうやって宇宙を観測するのか?」「人類はなぜ宇宙を目指すのか?」など10個の「疑問や問い」が畳みかけられている。「映画の予告編のようなかっこいいものにしたかった。テーマを『宇宙』に絞り、話の一貫性を大切にした」という伊藤さんの作品には、審査員からも「導入から引き込まれた」「宇宙へのワクワク感が伝わる」と絶賛の声が上がったという。

未来館スタッフも驚く成果を見せたCM制作プロジェクトだが、多くの生徒は動画編集が未経験だった。そこで授業では、まず企業のCMを分析。その上で基礎技術を学び、制作に取り組んだ。工夫の甲斐もあり、他の受賞者からも確かな成長の跡がうかがえた。
実践の中で父親からテロップの意図を問われ、表現に意味を持たせる重要性を再認識した生徒や、ターゲットであるSNS世代や親子連れをイメージして「SNS風のフレームにしてみた」という生徒もいた。小川先生が目指した「誰かのための新しいをつくる」姿勢は、生徒たちのCMの中で見事に表現されていた。

中学生の感性で捉えた未来館の「新しい見せ方」
全国の科学館や博物館にとって、中高生が訪れないことや理科離れは共通の課題となっているが、今回のCM制作は中学生の視点で科学の面白さを再発見し、発信する興味深い試みでもあった。
実際に生徒からは「科学に詳しくなくても、行けば新しい興味が出てくると思う」との意見もあった。未来館の場合、入館してすぐに目を引く巨大な地球ディスプレイ(ジオ・コスモス)に「どう吊り下げているのか?」と技術的な好奇心を抱く生徒や、お年寄りの身体感覚を疑似体験できる「老いパーク」などの体験型展示をゲーム感覚で楽しめたという生徒もいた。
科学館へ行って科学を体感することで、未来を自分事として捉える契機にもなった今回のプロジェクト。生徒たちのCM制作を通じて、未来館の新たな魅力を掘り起こす機会にもなったといえるだろう。
連携のカギは相手の「ミッション」への寄り添い
この連携を成功させたのは、双方の熱意、そして負担を最小化する「仕組み」だ。未来館側で主担当を担ったスタッフの山野晋平さんは「中高生は科学館から足が遠のきやすい世代。彼らの視点で未来館がどう見えているかを知ることは、我々のミッションにとっても大きな価値がある」と明かす。
一方で、スタッフの負荷を減らす工夫も凝らされた。学校側で「0次審査」を行い提出数を絞ったこと、作品を1分以内に制限したこと、評価ポイントを明確に絞り込んだこと。こうした事前の設計が、多忙なスタッフの協力を引き出した。

小川さんは強調する。「学校側の意向を一方的に押し通すのではなく、お互いがWin-Winになれることが一番。特に未来館のような公的機関は営利を目的としていないので、ミッションにどう寄り添えるかが重要でした」。対話から生まれたこの視点が、連携の原動力となった。
学校と科学館の双方がリソースを出し、知恵を互いに絞ることで、「探究疲れ」も「共創」へと変えることができる。今回の中学生たちの挑戦は、教育と社会をつなぐ新しい架け橋になったといえるだろう。
