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サイエンス読み物

共に生きる「ジョウビタキとナンテン」

Science Window 2015年冬号(2014年、8巻4号 通巻57号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。

 食べ物の少ない冬、ナンテンをはじめセンリョウ、ナナカマドなど真っ赤に熟れた実が鳥たちを誘う。鳥に実を食べさせて、ウンチとともにいろいろな場所に種子を落としてもらうのだ。

 鳥類研究者の上田恵介さんと植物研究者の多田多恵子さんによると、赤色は鳥にとって刺激的な色だという。上田さんは「とはいえ、冬の赤い実は鳥に好んで食べられているというわけでもありません。長く枝に放置され、霜でしおれたころにようやく鳥がやって来ます」と話す。

 ナンテンなど赤い実の中には、青酸化合物などの毒を少量含んでいるものもある。毒まではいかなくても渋みや苦みが強い上、果肉が少なく実の大半が種子であったりもする。鳥は、ほかに食べる物がなくなると魅力的な赤に引かれてつい、ついばむ。でも、「植物は実を一度に食べられてしまっては困るのです」と多田さん。

 親植物の近くに多数の種子が同じ場所にまとめて落とされてしまうと、芽が出ても競争が起こり、大きく成長できる可能性は低い。少しずつ、あちこちに種子を落とさせるために、植物はわざと実に毒を含ませて、鳥が一度にちょっとしか食べられないように仕向けているのだ。多田さんは、これを「ちょっとだけよの法則」と名付けている。クワやキ
イチゴのように甘く熟しておいしく食べられる実もあるが、こういう実は決まって一度には熟さず、その色を変化させながら少しずつ熟すことで、「ちょっとだけよ」と仕向けている。

 栄養価が少ないとはいえ、鳥にとって食べ物として利用できる赤い実の価値は大きい。別の見方もある。「植物の繁殖に役立つ鳥たちは、森を作り、その森によってまた生かされている。そのような大きな観点で見ていくことも大切です」と上田さんは語る。

 取材協力:立教大学教授(動物生態学) 上田恵介/立教大学非常勤講師(植物生態学) 多田多恵子

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