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サイエンス読み物

似姿違質「トウシキミ VS シキミ」

Science Window 2007年11月号(2007年、1巻8号 通巻8号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 どちらも聞き慣れない名かもしれないが、トウシキミ(唐樒)は、豚の角煮などでおなじみの香辛料「八角(はっかく)」のこと。もちろん無毒。東南アジアや中国の亜熱帯地方に自生し、栽培では広西省が有名だ。標高1000メートル未満の山の斜面に栽培されることが多いという。果実の成分に含まれるシキミ酸はインフルエンザ治療薬タミフルの合成原料のひとつとしても用いられる。

 一方シキミ(樒)は、本州から九州にかけての山林でよく見られる常緑樹。木全体にアニサチンなどの有毒成分を含むが、特に果実が有毒であることから、その語源は「悪(あ)しき実(み)」から「シキミ」となったとされる。果実は甘味もあるため、よく子どもたちが落ちた実を食べて被害に遭うことがある。古くは、オオカミやサルも嫌うシキミを墓に供えることで動物による墓荒らしを防いだという話もある。

 春先に咲く花は色も形も似てはいないが、秋に実る果実は瓜二つ。見分け方は、「トウシキミの成熟した果実は甘く香りますが、シキミの果実はツンとした、いわゆる仏前の抹香(まっこう)の匂いです」と、ツムラ生薬研究部の三木栄二さん。

 トウシキミはまれに温室で栽培されているが、日本ではまず見られない。日本の晩秋に見られる八角に似た果実は、ほぼ有毒なシキミだと思って間違いないだろう。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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