観察法のイロハのイ 自然がつくった神秘の空間鍾乳洞
日本各地には、数多くの鍾乳洞がある。長い年月をかけて生み出された洞窟内の光景は、どれも圧巻のスケール。太古の歴史を感じる神秘的な空間が広がっている。鍾乳洞の観察の仕方や楽しみ方を、洞窟探検家の後藤聡さんに聞いた。
達人に聞きたいコト
― 鍾乳洞ってどんなところ?
達人 鍾乳洞とは、主に石灰岩の地層にできる、鍾乳石のある洞窟のことをいいます。
鍾乳石は、つらら状に垂れ下がるものや、地面から筍のように成長するものなど、様々な形があり、環境にもよりますが、平均すると100年でわずか1cmほどしか成長しません。
石灰岩には、酸性の水に溶けやすい性質があります。二酸化炭素を含んで酸性になった雨水や地下水が、何十万年、何百万年と気の遠くなるような長い年月をかけて、じわじわと石灰岩を溶かし、洞窟をつくり出します。このとき、石灰岩から溶けた炭酸カルシウムが再び結晶化したものが、鍾乳石です。
成長した鍾乳石の成分に含まれる、放射線を出す物質の放射線量を測定すると、鍾乳洞のできた時期がわかるため、鍾乳洞は、地球の歴史が刻まれた場所といえます。
― 鍾乳洞では何を見ることができるの?
達人 まずは、いろいろな種類の鍾乳石を見つけることができます。天井から垂れ下がる「つらら石」や足元から筍のように立ち並ぶ「石筍」、壁を覆う「フローストーン(流れ石)」は、ほとんどの鍾乳洞で見ることができます。珍しい鍾乳石もあるので、事前に見どころを調べてから行くのがおすすめです。また、「ストロー」など、似た形に例えてユニークな名前が付けられていることも多いです。
鍾乳洞内ではあちらこちらに水たまりが見られ、地下水が豊富なところでは、大きな地底湖ができていることもあります。青く輝く水をたたえた地底湖のある洞窟は、とても幻想的です。
また、暗闇の鍾乳洞には、コウモリがすんでいます。彼らは夜行性なので、昼間は眠っていて気づかないことが多いのですが、糞のにおいを感じたら、近くにコウモリがいるかもしれません。天井などにも目を向けてみてください。
ほかにも、コウモリの糞を餌にしてカビが育ち、さらにカビを餌にするトビムシやヤスデなどがすんでいます。光合成を行う植物は、光の届かない鍾乳洞の奥では育たないので、入り口付近にしか見られません。
― 観察をより楽しむためのポイントを教えて
達人 楽しみ方は様々ですが、私は写真を撮ることを楽しんでいます。きれいな写真を撮るにはかなりの技術が必要ですが、ストロボは使わずに、手ブレに気をつけて撮るとよいでしょう。初心者でも気に入った鍾乳石を見つけて写真に収めるのは楽しいものです。
薄暗くて迷路のような鍾乳洞を歩くのは、冒険気分が味わえます。鍾乳洞の探検ツアーもあるので参加してみるといいですよ。
鍾乳洞の中をくまなく観察するのもポイントです。照明が当たらない場所を観察するために、ぜひ懐中電灯を持参してください。例えば、壁の形を観察すると、地下水の水量や流れた方向が分かるため、鍾乳洞がどうやってできたのかを推測できます。
また、ヒトデの仲間であるウミユリや動物などの化石、さらには洞内に流れ込んだ古代の人骨が見つかることもあります。化石は、かつて日本列島でどんな動物が分布していたのかを知る手掛かりになり、地球の歴史を紐解くことも楽しみのひとつです。ガイドにはない自分だけの発見ができるかもしれません。
鍾乳洞のでき方
探してみよう!こんな形の鍾乳石
つらら石
石筍
フローストーン(流れ石)
ストロー(鍾乳管)
カーテン(幕石)
ケイブパール(洞窟真珠)
鍾乳洞なんでも日本一
長さ
国の天然記念物に指定され、総延長約2万3,702mの長さを誇る安家洞(岩手県)は日本一長い鍾乳洞として知られています。「迷宮型鍾乳洞」と呼ばれ、今もその全貌は明らかになっていません。
高さ
標高900mに位置する飛騨大鍾乳洞(岐阜県)は、日本一標高の高い場所にある観光鍾乳洞として有名です。鍾乳洞の壁面には、海洋生物の化石が多く発見され、この場所が2億5,000万年前は海底にあったことが分かっています。
深さ
白蓮洞(新潟県)は地表から地下に延びる竪型鍾乳洞で、日本一の深さ513mを記録しています。白蓮洞があるマイコミ平には、深さが日本1位から4位までの鍾乳洞が存在しています。
広さ
「千畳敷」と呼ばれる日本最大の洞内空間を誇る秋芳洞(山口県)。幅80m、長さ175m、高さ35mの巨大な空間は、数万年前の大規模な落盤で誕生したとされ、幾重にも重なった巨大な岩が見られます。
知っておきたい注意点
・鍾乳洞へは子どもだけでは行かず、保護者の方と一緒に行きましょう。
・洞窟の中は薄暗いので、足元や頭上には特に気を付けましょう。
・鍾乳洞の中の岩石や鍾乳石をむやみに触ったり、傷を付けたりすることは厳禁です。
・鍾乳洞内は、狭い通路、急勾配もあります。動きやすく汚れてもよい服装で行きましょう。
・足元はぬれていて滑りやすいので、サンダルなどは避け、スニーカーなどの歩きやすい靴をはいて行きましょう。
・夏でも洞窟の中は涼しいので、上着を持っていくと安心です。
後藤 聡(ごとう・さとし)
洞窟写真家、洞窟探検家。日本洞窟学会会長。ケイビング(洞窟探検)歴は35年以上。世界中の洞窟を探検し、その数は、20カ国以上にも及ぶ。自ら洞窟遠征隊を主宰するほか、海外の探検家との洞窟遠征、国際洞窟会議と国際洞窟写真家会合にも参加。
ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window 2019年冬号「交わるアートとサイエンス」