レベル
サイエンス読み物

観察法のイロハのイ 夜空に天の川を探(さが)そう

Science Window 2016年夏号(2016年、10巻2号 通巻63号、32ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 七夕の季節。天の川に隔(へだ)てられてしまった織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)の伝説が思い出される。「天の川はなぜ川のように見えるのか?」、「天の川の正体とは?」など、天の川の謎(なぞ)に触(ふ)れながら、夜空に横たわる天の川を見つけるコツを玉川大学の佐治量哉(さじりょうや)さんに聞いた。

百円均一(きんいつ)店などで購入(こうにゅう)できるルーペと老眼鏡(ろうがんきょう)を重ね、2つの間隔(かんかく)を調整してピントを合わせると簡易望遠鏡(かんいぼうえんきょう)に。月のクレーターや木星や土星も見ることができる。

天の川の正体ははるか遠くの星の大集団(だいしゅうだん)の光

― 天の川はその名の通り、川のように見えるのはなぜですか?
達人 簡単(かんたん)に言えば、はるか遠くの無数の星の集まりが白く光って川のように見えるのです。どこにそんな星の集まりがあるかというと、銀河系(ぎんがけい)の中心や腕(うで)の部分です。

― 銀河系とは宇宙(うちゅう)のことですか?
達人 宇宙には数千億個(すうせんおくこ)もの星の大集団である銀河がたくさん存在します。地球のある太陽系は「天の川銀河」と呼ばれる銀河系に属しているのです。すぐ隣(となり)にはアンドロメダ銀河が存在(そんざい)していますよ。

― 宇宙は天の川銀河だけではないのですね。ところで天の川銀河はどのような姿をしているのでしょう?
達人 中心は平べったい円盤(えんばん)のような形をしていて、腕は渦(うず)を巻(ま)いています。太陽系は中心部分から約3万光年のところに位置しているのですよ。やや外側に近いところだと思ってください。普段(ふだん)、夜空に見えている星は、ほとんどが太陽系からそう遠くない星たちですが、天の川はそれらと比(くら)べるとずっと遠くにある星の光ということになります。

― 天の川には七夕のイメージがありますが、ちょうど今の時期に見えるのでしょうか?
達人 日本では、7月から9月の間、夜の8時頃(じごろ)に南の空を観察すると、天の川をよく見ることができます。七夕は旧暦(きゅうれき)では今の8月なので、一番見えやすい位置にある頃に、七夕の伝説が生まれたのでしょうね。

2016年5月27日23時頃に北海道旭川市美瑛町(あさひかわしびえいちょう)で真南の方角を撮影(さつえい)したもの。いて座の方角で白く光っているのが天の川。(写真提供(ていきょう)/佐治量哉)

今年は火星の接近(せっきん)で天の川を見つけやすい!

― 天の川はどのように見つけたらいいですか?
達人 基本的(きほんてき)には南の空を見て、さそり座を目印にするといいでしょう。赤く輝(かがや)くアンタレスがさそり座(ざ)の心臓(しんぞう)部分にあり、そこからS字を描(えが)いたしっぽのあたりが川のように白く光っています。今年は火星と地球が接近していて、8月まではアンタレス近くに見ることができます。特に、真っ赤に輝く火星は、都心部でもすぐに分かるほど目立つので、さそり座を見つけやすいですよ。

― 都心部でも天の川を見ることができますか?
達人 都心部は地上の明かりが多いので難(むずか)しいでしょう。天の川は見えませんが、火星とアンタレスを見つけることができたら、そこに天の川を想像してみるといいですね。

― 9月になると、目印はさそり座のアンタレスだけになりますか?
達人 夏の大三角を構成すること座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブが天頂(てんちょう)に輝いています。これを目印にしてもいいですね。織姫星のベガと彦星のアルタイルが天の川の両岸にあり、はくちょう座は天の川を泳いでいます。いて座にかけて、天の川が流れるように白く光っていますよ。

― この天の川全体が銀河系の中心なのですか?
達人 いいえ、天の川銀河の中心はいて座の方向です。私(わたし)たちが夜空に見ている星たちは、地球から近い、遠いにかかわらず、ほとんどが銀河系の星を見ているのです。

無限(むげん)に広がるこの宇宙を星の位置関係で感じよう!

― 銀河系の姿(すがた)を私たちは見ているのですね。どのような条件だと天の川はきれいに見えますか?
達人 よく晴れていて、真っ暗な場所ですね。学校での宿泊(しゅくはく)学習や夏休みの旅行などで、観察できる機会があるといいですね。

― ぜひきれいな天の川を探してみたいです。きっと宇宙の広がりを感じることができますね。
達人 空を見上げるだけでは分かりにくいけれど、宇宙には奥行(おくゆ)きがあります。はるか遠く銀河系の中心部分で光る星たちと、太陽系に近いところで輝く星たちとの位置関係を思い描(えが)くと、その奥行きを感じることができるでしょう。今年は8月12日がピークのペルセウス座流星群の観測が最良の条件なので、その頃には天の川と一緒(いっしょ)に降(ふ)りそそぐ流れ星を見ることができます。観察が一層(いっそう)楽しくなりそうですね。

天の川銀河は平べったく渦を巻いていて、中心にはたくさんの星が集まっている。太陽系は銀河系の中心から離(はな)れたところにあるため、地球からはるか遠くの銀河系の中心を見ると、無数の星の光が集まって川のように見える。アンドロメダ銀河は天の川銀河の隣に位置し、その距離(きょり)は230万光年。
7月末頃の南向きの空(午後8時頃)。火星は8月末には、アンタレスの左側(土星の下側)に移動している。夏の大三角からさそり座のしっぽにかけて天の川が流れ、はくちょう座は天の川を泳いでいるように見える。銀河系の中心は、いて座の方向。

達人:佐治量哉(さじ・りょうや)
玉川大学脳(のう)科学研究所応用(おうよう)脳科学研究センター准教授(じゅんきょうじゅ)。博士(工学)。専門(せんもん)は赤ちゃんの脳の研究。同大学学術(がくじゅつ)研究所の天体観測施設(かんそくしせつ)(K-16一貫教育(いっかんきょういく)研究センター)で、教員志望(しぼう)者に理科教育の指導(しどう)も行っている。

 ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。

関連リンク

一覧に戻る