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サイエンス読み物

観察法のイロハのイ 雪の重さを量ろう

Science Window 2016年冬号(2015年、9巻4号 通巻61号、32ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 雪の重さってどのくらいだと思いますか? そう問(と)い掛(か)けるのは雪や氷の研究をしている日本雪氷学会(にほんせっぴょうがっかい)関東以西支部(かんとういせいしぶ)の宍戸真也(ししどまさや)さん。雪は重くなると木の枝(えだ)を折ったりビニールハウスを壊(こわ)したりすることもあるという。宍戸さんは同じ支部の松田益義(まつだますよし)さんや澤田結基(さわだゆうき)さんらとともに、どのようなときに雪は重くなるかを知ってほしいと活動している。今回は雪の重さを量りながら3人の達人に雪について教わった。

ペットボトルで簡単(かんたん)に作れる雪の結晶(平松式人工雪発生装置(ひらまつしきじんこうゆきはっせいそうち):『Science Window』2008年2月号p.22-23) 雪の結晶ができる様子が観察できるよ!

― 雪は一般的(いっぱんてき)にはフワッとしていて軽いイメージがありますが。
達人 宍戸 確(たし)かに降(ふ)りたての雪はサラサラしていて軽いですね。でも、積もって時間がたつと水っぽくベタベタしていることがあります。このような雪はかなり重いのです。

― 見た目でも分かりますか?
達人 宍戸 見ただけではなかなか区別がつきません。でも、同じ大きさの容器(ようき)に入れてそれぞれ量ると、重さの違(ちが)いがはっきりします。

― 本物の雪がなくても違いは確かめることができますか?
達人 宍戸 今回はかき氷器で模擬的(もぎてき)に雪を作ってみました。削(けず)りたては軽い雪です。スコップなどで混(ま)ぜ合わせたり、押(お)しつぶしたりしているうちに重い雪になります。

― 重さを比(くら)べるとよく分かりますね(下の写真)。なぜこんなに違うのですか?
達人 宍戸 雪質(ゆきしつ)が違うからです。雪質は、新雪、しまり雪、ざらめ雪、霜(しも)ざらめ雪などに分けられます。降りたての新雪は軽く、しまり雪やざらめ雪は重くなります。水の2分の1くらいの重さになることもあるのですよ。「水と氷と雪の重さの比較(ひかく)」を見ると分かりやすいですね。

かき氷器で作った削りたての軽い雪(右)と重くなった雪(左)。虫眼鏡(むしめがね)でよく見ると、雪粒の違いが観察できる。

重い雪は屋根をつぶすことも

― 「雪の重さを量ってみよう」という活動を始められたのはなぜですか?
達人 松田 2014年2月に関東甲信越(こうしんえつ)地方で2度も大雪が降ったことがきっかけです。気象庁(きしょうちょう)の発表によれば都心部の積雪はいずれも27センチメートルだったのですが、2回目の大雪のときには駐車場(ちゅうしゃじょう)の屋根が積もった雪で押しつぶされるなどの被害(ひがい)が多く発生したのです(下の写真)。

(左)電車や電線にはたくさんの雪が付着することがある。(写真提供/宍戸真也) (右)2014年2月に関東地方の都心部を襲(おそ)った2回目の大雪による被害(写真提供/矢吹裕伯(やぶきひろのり)(JAMSTEC))

― 2回目の雪は重くなっていたのですか?
達人 松田 そうです。1回目の雪は縦(たて)1メートル×横1メートル×高さ1メートルで量った重さが130キログラムでした。2回目は同じ条件(じょうけん)で270キログラム。約2倍も重かったのです。

― なぜそれほど違ったのですか?
達人 松田 雪が降ったときの気温が0度〜1度の間か、0度より低いかがポイントです。1回目のときの気温はマイナス0.4度、2回目のときはプラス0.6度でした。気温が0度より低いと、雪粒(ゆきつぶ)はトゲトゲした六角形で隙間(すきま)が多く軽いのですが、気温が0度より高いと、雪の一部が融(と)けて水分を多く含むことになるので重くなります。降り始めからすでに重くなっていることもあります。雪がみぞれや雨に変化したときも同様です。季節外れの春に積もった雪で、木の枝が折れそうになっているのは、水分が多く重い雪質だからなのです。

重い雪質には気を付けて

― サラサラの軽い雪は気温が0度以下で降りたてのときだけですか?
達人 澤田 気温が0度以上にならなければ、水分が隙間に入り込(こ)まないので、いつまでもサラサラのままです。冬の北海道やシベリアの雪などがそうです。このような雪を「乾(かわ)いた雪」と呼(よ)びます。風が吹(ふ)くとフワッと舞(ま)い上がるような雪です。乾いた雪では雪だるまを作れないし、雪合戦もできないんですよ。乾いているので玉になりにくいのです。

― 水分があった方が遊ぶには楽しいようですね。
達人 澤田 でも水分を多く含む雪は、気温が0度よりも低くなったときに注意が必要です。隙間の水分が凍(こお)って滑(すべ)りやすくなります。

― ほかにも注意したいことはありますか?
達人 宍戸 水分の多い雪質は付着しやすくなっています。例えば電線に雪が付着し始めると、雪は落ちずにどんどん膨(ふく)らんでいきます。すると雪が付いて重くなった電線が風にあおられて、電線が切れることもあります。車や電車ではフロントガラスに付着した雪で前方が見えなくなることもありますね。新幹線(しんかんせん)では車体に付着した雪が走行中に線路に落ち、周囲の設備(せつび)を壊すこともあります。

― 雪は危険なこともあるのですね。
達人 澤田 雪に慣(な)れている人にとっては当たり前のことですが、雪に慣れていない人にとっては考えもしないことですね。でも、日本は世界的に見れば雪の多い国なので、誰(だれ)もがどこかで雪に遭遇(そうぐう)することがあると思うのです。ですから雪についての知識(ちしき)をしっかりと持ち、水分を含んで重くなった雪は、被害を起こすこともあるということを知っていてほしいと思います。

雪粒の様子は偏光(へんこう)フィルターを用いて撮(と)ったもの。(偏光写真提供/山田知充(やまだともみ)(日本雪氷学会会員))

達人:右から縫村崇行(ぬいむら・たかゆき)さん、澤田結基さん、保科優(ほしな・ゆう)さん(前)、松田益義さん、宍戸真也さん、上野健一(うえの・けんいち)さん(日本雪氷学会会員、サイエンスアゴラ2015出展ブースにて)。

 日本雪氷学会関東・中部・西日本支部(URL: https://www.seppyo.org/kcn/)では、2016年より、スマートフォンを使って雪の観測(かんそく)データを一般の人たちから収集(しゅうしゅう)する準備(じゅんび)を進めている。雪を観測するための道具は無料で配布(はいふ)する予定。

 ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。

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