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サイエンス読み物

観察法のイロハのイ 春の身近な草リサーチング

Science Window 2015年春号(2015年、9巻1号 通巻58号、26ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 春、外に出て足元を見れば、どんなところにも草を見つけることができます。アスファルトの割れ目のような場所にも。時には「雑草」ともいわれている、そんな身近な草の魅力を東京農業大学の宮浦理恵さんに教わりました。

草を観察するポイント
イ 身近な場所で探す
ロ 花に注目する
ハ 名前や由来などを調べる

― 身近に観察できる草としては、野山の野草でしょうか?
達人 野草よりも雑草の方が人々の生活により近いのではないですか。野草には野や山などの草も含まれますが、雑草なら都会の片隅にも生えていますし。

― 生えている場所が身近ということですか?
達人 どちらかといえば人との距離でしょう。それは呼び方の違いからも分かります。植物には和名と学名があります。雑草にはさらに方言が加わります。土地によって名前が違ったりするのですよ。驚くでしょう!

― どんな草を雑草と呼ぶのでしょうか?
達人 雑草は狭い意味では、人が望まない所に生えるものをいいます。例えば、ジャガイモ畑に菜の花が生えてきた場合、菜の花は雑草になります。でも広い意味では、例えば災害などで、土だけになった所に真っ先に生える草、または人々の生活に身近な草のことです。

― それだけ親しまれてきたということですね。
達人 そうですね。それに季節性があることも日本人にとっては親しみやすいですよね。草の季節は夏と冬に分かれます。今は春なので冬の草が緑。もう少しすると夏の草が新しい芽をどんどん出してきますよ。

ホトケノザ(シソ科)
葉の上の花が、仏が座っているように見えることから名前が付いたとされる。春の七草のホトケノザは、これとは別。

名前は花が咲くと分かる!

― 春に草の花が咲き始めるのは、次の冬に再び芽を出すためですか?
達人 そうです。花はよく見るとかわいらしいのですよ。図鑑で名前を調べるために、花を付けている草を摘んで持ち帰りましょう。標本にしてもいいですね。夏休みの自由研究としても活用できます。

― 花があった方がいいのですか?
達人 花がないと正しい名前が分かりません。葉だけでは似ているのも多く、見分けがつかないのです。

― 葉だけだと、これからどんな花が咲くか楽しみですね。
達人 予想してみるとおもしろいのでは? 草を抜いて鉢に植えてもいいし、ようじなどの目印を立てておくのもいいですね。葉だけのときの予想と、花が咲いたときの名前が一致するかどうか。わくわくしますね。

葉や根の特徴を探そう!

― タンポポに葉が似ていますが、これはナズナですか?
達人 そうです。ペンペングサで親しまれていますね。ロゼット葉といって、葉が地面に張り付いたように丸く広がっています。

― 寒さに対して効果があるのですか?
達人 葉が一カ所を中心にして四方八方へ広がっているので、太陽の光をたくさん浴びることができ、また熱が逃げにくいのです。

― 細長いネギのような葉の草も生えていますね。
達人 ユリ科のノビルですね。ノビルは抜くときに地下部が切れます。それが散らばって大繁殖するのですよ。掘って見てみましょう。

― 白くて小粒のらっきょうのような形のものがたくさん付いています。
達人 白い部分は鱗茎(りんけい)といって食べられますよ。味噌和えなどにするとおいしいです。このハコベや先ほどのナズナは春の七草として食べます。食としても日本の文化にしっかりと溶け込んでいますね。

― 身近な草は生活のいろいろな場面で役立っているのですね
達人 昔から薬としても利用されていますしね。ほかには子どもたちの遊びにも使われます。

身近な草は人と共に生きている

― そういえば子どものころ、身近な草でよく遊びました。ナズナを耳元で振って音を出したり、シロツメクサの花で冠を作ったり、オオバコで綱引きをしたり……。とても楽しかったのを覚えています。
達人 私たちの身近にある草は、遊ばれ方、使われ方がさまざまです。人々はそれを生活の中で利用してきました。とても奥深いですね。世界中のどこへ行っても、必ず草は生えています。身近な草を通して、自然やそこでの人との関わりを感じてみましょう。

春に見ることができる身近な草

葉はロゼット状で、果実はハート形。果実を振ると鳴ることから、地域によってはガラガラともいう。春の七草の一つ。
芽が生えるころは、ホトケノザと同じようなピンクの花をつけるので間違いやすい。
春に花を咲かせる代表的な草の一つ。
方言*ではスズメノハカマ、ショッペショッペ、ゼニミガキ、ハラタチグサ、チドメグサなどと呼ばれる。
根に付いている白い部分は食べることができる。
昔から薬草として利用されている。春の七草の一つ。

*方言は『野外観察ハンドブック 新版校庭の雑草』(岩瀬徹ほか、全国農村教育協会刊)を参考にした。

達人:宮浦理恵(みやうら・りえ)
東京農業大学国際食料情報学部国際バイオビジネス学科。博士(農学)。日本雑草学会幹事。草と人との関わりをアジアの農業を通して研究している。

 ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。

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