観察法のイロハのイ 温度計を持って探ってみよう 温度リサーチ
「暑い」「冷たい!」「涼しい~」……。夏は、温度を表現する言葉をたくさん使う季節です。科学では、熱さや冷たさは温度で表します。温度計を使った観察や実験に詳しい東邦大学物理学科の酒井康弘教授に、温度計で読み取った数値から物質の性質などを推理する楽しさを教わりました。
温度を測って観察するポイント
イ 温度計は測定範囲で選ぶ
ロ 目盛りは目の高さで読む
ハ 温度計に直接光が当たらないように測る
1本の温度計を持っていろんな所を測ってみよう
― 温度計っていろいろありますが、どれを選んだらいいですか?
達人 壁掛け型、置き型、シール型、棒型などがありますが、大切なのは形状ではなく測定できる範囲です。例えば、天ぷらの油の温度を測るのに、セ氏100度までの温度計では割れてしまうので危険ですね。
― まず、温度計の正しい測り方を教えてください。
達人 できるだけ目の高さで目盛りを読みます(写真参照)。
― いろいろ測ってみたいのですが。
達人 今日は天気がいいので外に出てみるのはどうですか。温度差のある所が多くておもしろいかもしれません。自分で考えて、いろんな所を測ってみましょう。
夏は日なたや日陰など、場所によって温度差が大きい。また、同じ場所でも地表からの高さによって温度が変わってくることが多い。協力は東邦大学理学部物理学科4年の長谷川徹さん。
― 芝生で色の違う場所があります。
達人 人工芝と天然芝が隣り合っていますね。最初に、手で触って温度を感じてみましょう。
― 人工芝の方が熱く感じます。太陽の光が同じように当たっているのに不思議ですね。
達人 芝の表面温度を測ってみますか。注意するのは直射日光が温度計に当たらないようにすることです。
― 人工芝が30度で天然芝が22度、やはり人工芝の方が高いですね。
達人 感覚の違いが数値でも確認できましたね。数値にすると、物の性質が分かってきますね。アスファルトや土の表面温度なども測って比較してみましょう。夏は思った以上に温度が高くなっている所があります。また、いろいろな場所や高さの温度を測って、なぜ異なる温度になるのかを考えてみましょう。
日常の「なぜ」を調べてみよう
― 温度を測るだけでいろんなことが見えてくるんですね。ほかにも身近なことを調べてみたいです。
達人 季節外れですが、一例として、鍋の中の湯と豆腐の温度変化を調べてみましょう。
― 準備は大変ですか?
達人 簡単ですよ! カセットコンロに鍋を置き、中に水と豆腐を入れます。水と豆腐の温度は棒温度計を入れて測りましょう(イラスト参照)。
グラフを描けば見えてくる
― 測定はどのように行いますか?
達人 点火前の水と豆腐の温度を記録しておきます。点火後は例えば1分間隔で温度をノートに記録しましょう。1分だと1人での観察と記録は忙しいかもしれないので、分担を決めて2、3人で協力してもいいですね。
― 火はいつ消しますか?
達人 沸騰したら消しましょう。消火後も記録を続けてください。もちろん点火と消火のタイミングも忘れないように記録しますよ。
― 先生、温度計が外れました!
達人 大丈夫ですよ。すぐに戻してそのまま実験を続けてください。記録には残しましょうね。
失敗は次への学び!
― 記録が終わりました。
達人 ではグラフを描いてみましょう。そしてじっくりと考えてみます。
― あっ、温度計が外れたことが数字で表れています。
達人 どれどれ、ほんとですね。記録にもきちんと示されていますね。記録があれば、その時のことが説明できます。グラフを見て、ほかにはどんなことが分かりますか?
― 消火後に水温は下がりますが、豆腐の温度は一旦は上昇し、下がり方は小さいように思えます。
達人 水は豆腐に比べて、熱しやすく冷めやすいということです。反対に、豆腐は温まりにくいけど、冷めにくいということが言えますね。
― 豆腐はなぜ冷めにくいのでしょうか?
達人 豆腐は保温性が高い物質のようです。豆腐と水の性質の違いが温度を測ることで見えてきましたね。今は夏なので、冷や奴も調べてはどうでしょう。水と比較して冷たい豆腐が常温になるまでの変化を調べてもいいと思います。いろいろなことを自由に考えて確かめましょう。
― 理科の実験というと、失敗するのではと怖いんですが・・・・・・。
達人 もちろん、豆腐と水の温度の上がり方や下がり方について報告したいようなときには、実験はやり直した方がいいですよ。でも、そうではないときは、失敗ではなく、今回の実験のように、なぜそうなったのか、次はどうしたらいいのかを教えてくれるものです。温度を測ることは学校でも家庭でもどこでもできます。理想通りに運ばなくてもいいんです。どんどんいろんな温度を測って、なぜを考えてみましょう。
達人:酒井康弘(さかい・やすひろ)
1962年生まれ。東邦大学理学部物理学科教授。理学博士。「物理学は?(はてな)と!(びっくり)」をモットーに、小中高校の児童や生徒を対象に実験教室を行っている。科学論文コンテストなどの審査員も担当。
ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2014年夏号「特集 1℃の気づき」