観察法のイロハのイ 海辺で探索!ビーチコーミング
海辺での自然観察法。砂浜や岩浜に打ち上げられた貝や生物を拾って楽しむ「ビーチコーミング」は、思わず夢中になります。ビーチコーミングに詳しい海洋生物学者の池田等先生に、基本中の基本を教わりました。
特別な道具はいらない
― 自然観察をやってみたくても、道具が必要だったり、専門知識がないと難しそうです。
達人 だったらビーチコーミングをお勧めしますよ。「ビーチコーミング」は、浜辺をくし(コーム)でとくように漂着物を拾うことで名付けられたとされる自然観察法。専門知識がなくても大丈夫です。集めた漂着物から自然のことを考えてみるといい。
― 特別な道具は必要ない?
達人 はい。ただピンセットはあったほうがいいでしょうね。海岸に落ちているものの中には危険なものがあります。例えば、ガラスの破片。長らく砂に洗われて角がなくなったものはビーチグラスといって、拾い集める人もいますが、角が鋭いままのガラスに触るとケガをするかもしれません。
背びれに猛毒を出すとげを持つハオコゼのような生物が打ち上げられることもありますから、まずはピンセットで拾い上げたほうがいいですね。ピンセットがなければ割りばしで拾えばいいし、漂着物を持ち帰るにはビニール袋で十分です。
― どんな海岸でもできます?
達人 漂着物が打ち上げられない切り立った岸壁のある海岸はダメですが、砂浜、岩浜ならできます。特に両端を磯で囲まれた砂浜は打ち上げられるものの種類も豊富です。(下の写真)
― 満潮と干潮ではどちらの時間が適していますか?
達人 干潮、満潮のいずれの時でも可能です。ただし、干満の差が小さな小潮の日のほうが、漂着物が狭い範囲に打ち上げられるので効率的に拾い集められます。逆に干満の差が大きな大潮だと漂着物は散らばってしまうし、波にさらわれて沖に戻されてしまいます。
漂着物から自然を想像する
― 拾った漂着物をどのように楽しめばいいんでしょうか?
達人 いろいろな楽しみ方があります。以前に海辺の観察会を開いたときは、拾い集めたものを自然物と人工物に分けるという課題を、子どもたちに与えたことがあります。
― 貝殻やイカの骨といった自然物のほか、ペットボトルや洗剤の容器などの人工物も拾えますね。でも、自然物と人工物を分けるのは簡単過ぎるのではないですか?
達人 時々区別しにくいものが拾えるんですよ。その代表格がカイメン。生きている時には岩場に付着していますが、死んで繊維質が残ると人工のスポンジと区別できなくなる。人工物だと思っても不思議はありません。また、漂着物の穴に注目させるのもおもしろいですよ。
― 穴ですか……。この二枚貝の殻にも小さな穴が開いていますね。
達人 それはアサリの貝殻ですが、ほかにも穴が開いた二枚貝を探せるはず。必ずと言っていいほど同じところに穴が開いている。これは、肉食のツメタガイがヤスリのような歯舌(しぜつ)を使って穴を開け、二枚貝を食べた跡です。
― 海岸で拾った岩石には、穴というか、くぼみがあるものが多いですね。これは 自然に開いたものなんですか?
達人 それはカモメガイの仕業です。カモメガイは、すみかを作るために、砂岩や泥岩のような軟らかい岩石に穴を開けるんです。こんなふうに穴に注目するだけでも、自然の営みを考えることができるでしょう。
種類が分からなくても大丈夫
― 拾った貝殻から何の貝か分かるコツはありますか?
達人 貝の種類を見分けるのは決して簡単ではありません。相模湾だけでも2000種類の貝がいるので、図鑑と見比べるしかありません。でも、慣れると貝殻の破片からでも種類を特定することはできますよ。例えば、これ……。
― こんな破片からも分かるんですか?
達人 色はオレンジ色ですね。それに細かい縞模様。イボ状の小さな突起もあります。これでミクリガイというエゾバイ科の貝だと分かります。このように種類を特定するには、ある程度、貝を知っておかないと難しいでしょう。でも、自然環境を理解するのには役立ちます。種類が分からなくても、俗に「一枚貝」と呼ばれる巻貝のカサガイ類と、アサリなどの「二枚貝」は区別できますよね。一枚貝は岩に付着しているので、通常、砂浜にはいない。両端を磯に囲まれた砂浜でよく拾うことができますが、ずっと砂浜が連続するような海岸で拾ったとしたら……。
― 潮で流されてきたと推測できますね。
達人 近くの磯から流れてきたのかもしれません。潮の流れを推測する機会になりますね。一枚貝の貝殻だけでも自然について考えられることはたくさんある。ただ漂着物を拾うだけでなく、自然を理解するための糸口にしてもらいたいですね。
達人:池田等(いけだ・ひとし)
神奈川県生まれ。研究分野は海洋生物学。主な著書に『ビーチコーミング学』(東京書籍)、『海辺で拾える貝ハンドブック』(文一総合出版)などがある。
ここに掲載する記事は『サイエンスウィンドウ』掲載当時のものですので、所属等は変更になっている場合があります。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2013年夏号「特集 海の声を聞こう」