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サイエンス読み物

共に生きる「ツノゼミ、クロオオアリ」

掲載日
2024.06.01

 地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。

 ツノゼミは体長数ミリほどの小さな虫だ。大きな種類でも2センチ程度だという。ツノのように見える部分は、胸が変化したものだが、このバリエーションが実に豊かで、報告されているだけで、世界で約3100種にもなる。

 「アリやハチのように強力な武器を持たないので、ほかの生き物に食べられないよう、擬態を進化させてきたと考えられています」と話すのはツノゼミの研究者、丸山宗利さん。植物の芽やとげになりきっているものも多いが、ハチなど危険な生き物に似せているものや、いもむしのふん、昆虫の脱皮した抜け殻など、食べてもおいしくないものに似せているものもいるという。カラフルで奇抜な形もある。

 ツノゼミはセミではないが、セミやアブラムシと同じ仲間(カメムシ目)だ。羽を持っていて飛び、針のように細くて硬いストロー状の口で植物の汁を吸う。汁の中には多くの糖分が含まれているため、過剰なものは体外に排出する。

 アリはこの甘い蜜が大好きだ。まだ羽が生えておらず、あまり動き回らない幼虫はかっこうの存在。触角で幼虫の体をやさしくたたくと、腹の先から蜜が出てくる。一方幼虫にとっても、天敵のクモや昆虫から守ってもらえるメリットがある。アリとツノゼミの種の組み合わせは、これ以外にもたくさんある。

 丸山さんは10年ほど前シカゴに留学していたとき、早春の森で下草の葉の上に、たくさんの見たこともないツノゼミを見つけた。以来、南米や東南アジアなど熱帯の森を中心に、世界中のツノゼミを研究している。

 植物の軟らかな新芽にアリが行き来をしていたら、要注意。ツノゼミが見つかるかもしれない。「日本にも十数種類ほど生息しています。小さな世界の美しさをぜひ観察してください」と丸山さんは話している。

 取材協力:九州大学総合研究博物館助教 丸山宗利

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