共に生きる「アカヒレタビラとイシガイ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
里山をすみかにする小さな魚、タナゴ。その美しさゆえに愛好者も多いが、外来種の侵入や農地の整備など環境の変化に伴い、現在ほとんどの種が絶滅危惧種になっている。
タナゴの産卵場所はイシガイやドブガイなどの二枚貝の中。貝の出水管の中に一つずつ産み付ける。貝の中は常に新鮮な水が供給されているので、卵にとっては理想的な環境だ。卵からかえった稚魚はしばらく貝の中で過ごし、やがて出水管から出ていく。
それにしても、コイなどの多くの魚は藻などの水中植物に多量の卵を産み付けるだけなのに、タナゴたちはなぜ苦労をして貝の中に産卵するのか。
「もともとのすみかは、洪水がよく起こる氾濫原と言われる厳しい場所でした」と話すのは里山などの身近な自然環境を研究する角田裕志さん。変化が大きく、環境が安定していないところでは、単に水草に卵を産み付けるだけでは孵化(ふか)させることが難しい。このため、卵をより確実に孵化させるたくみな方法を進化させたのではないかという。
一方、貝たちもまた、自分たちの子どもをハゼの仲間のヨシノボリやドジョウなどの身近な魚に託す。母貝の中で孵化して水中に出てきた幼生たちはまだ貝殻を身に付けておらず、身を守る方法を持たない。魚のエラやヒレに寄生して外敵から身を守りながら、栄養も分けてもらって成長するのだ。「タナゴと二枚貝は一対一の共生関係とは言えませんが、自然の中でお互いに持ちつ持たれつの関係が築かれています」と角田さん。今、各地でタナゴ保護の関心が高まっているという。「あえて生きにくい環境に活路を見いだしてきたタナゴを守ることは、私たち人間が暮らす環境の多様性や豊かさを守ることでもあります。地域の人たちと私たち研究者とが手を携えて保護活動を進めていきたい」と角田さんは話す。
取材協力:埼玉県環境科学国際センター自然環境担当 角田裕志
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