共に生きる「ゴエモンコシオリエビと硫黄酸化細菌、メタン酸化細菌」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
太陽の光が届かない真っ暗な深海。そこに光合成をする植物は見当たらないが、魚やエビ、カニをはじめとするさまざまな動物たちが存在する。彼らの主な食べ物は上から降ってくるプランクトンの死骸など。とても十分な栄養とは言えず、深海生物たちはひっそりとまばらに暮らしているのが普通だ。
「ところが熱水が噴出している場所だけは特別で、砂漠の中のオアシスのようです」と話すのは海洋研究開発機構研究者の和辻智郎さん。和辻さんは無人探査機「ハイパードルフィン」を使用して、これまで何度も沖縄の深海を調査した。1000メートルほど潜ると、熱水噴出孔の近くの海底に巨大な白っぽい塊が見え、さらに近づくと、ゴエモンコシオリエビがびっしりと張り付いている様子が分かるという。
「それは地上の生物密度をしのぐはびこり方なのです」と和辻さん。世界のほかの熱水噴出孔でも、事情は同様らしい。「なんでこんなにいるの?」「深海なのに、どうしてこんなにたくさんで生きていけるの?」。和辻さんはこの謎を解明したいと思った。
胸毛に付く細菌を食べ物としている可能性が考えられたが、地上と深海とでは100気圧近い圧力の差があり、生かしたまま地上に引き上げることが困難だった。彼らの体内に溶けた気体を徐々に抜く方法により、世界で初めて生け捕りに成功したのが、和辻さんの研究グループだ。実験の結果、ゴエモンコシオリエビの胸毛には、熱水に豊富に含まれる硫化水素やメタンをエネルギー源とする2種類の細菌が付着し、ゴエモンコシオリエビはそれらを食べて生活していることが実証された。
「進化の過程で細菌と共生する道を選び、共食いもせず、深海でひしめき合って生きている姿は驚きです」と和辻さんは話している。
取材協力:国立研究開発法人 海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野研究員 和辻智郎
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