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サイエンス読み物

共に生きる「コアオハナムグリとノアザミ」

Science Window 2015年秋号(2015年、9巻3号 通巻60号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。

 「世界中でハナムグリの来ない花はないと思いますね」と話すのは、長年ハナムグリの研究に携わってきた酒井香さん。ハナムグリは北極、南極を除く世界中に3000種以上が生息する昆虫で、日本で確認されているのは28種にのぼる。

 カナブンなどコガネムシの仲間だが、コガネムシが樹液を吸ったり、葉を食べたりするのに対して、ハナムグリは甘くて栄養価の高い花粉と花蜜が大好物。身体中に花粉を付けて花の中にもぐりこんでいるところから「ハナムグリ」の名を持つと言われている。食欲は旺盛で、顎(アゴ)でめしべをがりがりかじって花蜜を吸い、自分の頭が磨り減るほどだという。
 ノアザミやハルジオン、セイタカアワダチソウなどの草花から、クリ、ウツギ、コデマリなどの木の花まで、コアオハナムグリが訪れる花は数多い。よく集まる花は地域ごとにさまざまで、同じ地域でも午前と午後とで違うらしい。「どの花がいつ花蜜を多く出すか、よく知っているのでしょうね」と酒井さん。

 一方ノアザミは、虫たちに花粉や花蜜を与えて花粉を運ばせ、受粉を助けてもらう。花をツンツンと突っつくと中から白っぽい花粉が出てくるのがアザミの特徴だ。虫が来たときだけ花粉を出して、雨や風で大事な花粉を無駄にしない特性があると考えられている。

 ハチやチョウなど花粉を運ぶほかの昆虫に比べ、ハナムグリがどの程度受粉に貢献しているかは、あまり詳しくわかっていない。とはいえ、長くてふさふさしたお腹の毛と身体中を花粉だらけにして花々に運ぶ。後ろ羽だけで飛ぶスタイルも、前羽も使うカブトムシのように力強くはないが、素早く、効率よく花々の間を飛び回るのに適している。
秋に見かけるのは、今年の新成虫たち。腐葉土の下などで一冬を過ごし、次の春に交尾、産卵をした後、盛夏の頃までに一生を終える。

 取材協力:コガネムシ研究家 酒井香

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