共に生きる「ハタゴイソギンチャクとカクレクマノミ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
イソギンチャクは「刺胞」という毒のある銛(もり)をびっしりと備えた触手で、小さな生物を獲物として捕らえる。このイソギンチャクの触手の間で、捕食者から身を守って暮らしているのがクマノミの仲間だ。彼らは体表面に特殊な粘液を持ち、刺胞からの攻撃を受けない。
1つのハタゴイソギンチャクには、繁殖に携わるペア1組とそれより小さい雄が1~2匹暮らしている。彼らの間には体の大きさによる厳格な階級が存在する。最も大きくて強いのは雌で、カクレクマノミでは最大体長9センチ程。次の位は、雌より二回りほど小さい雄。すべての雌は雄から性転換したもので、先代の雌が(捕食されるなどして)いなくなると、次位の雄が雌になれる。小さな雄たちは未来のペアの予備軍である。
カクレクマノミの仔魚たちは孵化後すぐ、水面近くに浮上して、1週間ほど浮遊生活を送る。カレクマノミに特徴的な白いバンドが出現するころには、体表面上に保護粘液が完成し、海底に移動して共生するイソギンチャクを匂いで探し出す。
子どもたちは孵化直前の卵内にいる時期から孵化直後までの間に、両親が共生していたイソギンチャクの匂いを学習し、それによって自分たちが共生すべきイソギンチャクを認知する。このしくみを2014年、クマノミを研究する幸島和子さんは発表した。
一方、イソギンチャクの研究者、柳研介さんはクマノミとの共生のメリットについて「イソギンチャクは体内にすむ藻類から栄養をもらって生活しています。クマノミが大事な自分の家を守ろうとするおかげで、常にのびのびと生活できる。光を受ける面積が広がるため、藻類の光合成による栄養もたくさん生産されるだろうと考えられています。しかし、詳しいことは分かっておらず、今後の研究が待たれます」と話す。
取材協力:京都大学野生動物研究センター特任研究員 幸島和子/千葉県立中央博物館分館 海の博物館主任上席研究員 柳研介
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2015年夏号「特集 自然災害の国に生きる」