共に生きる「キンリョウヘンとニホンミツバチ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
「ニホンミツバチがキンリョウヘンの花に、群れで集まることはよく知られていて、養蜂家がハチの群れを捕獲するのに利用しています」。こう解説するのはニホンミツバチの研究を長年続けている神戸大学大学院理学研究科研究員の菅原道夫さん。一般にハチは群れで花に集まることはなく、ニホンミツバチとキンリョウヘンに限った特異な現象だ。さらに珍しいことには、交尾するためにオスの集結場所に出る以外、外に出ないオバチまでも花に集まるという。
「キンリョウヘンは、ハチが利用できる花粉を持たないし、花から蜜を出さないので、花粉や蜜でハチたちを集めているわけではありません。花が放つ匂い物質で引きつけていると考えられてきましたが、詳しいことは分かっていませんでした」。この匂いが花弁とガクから放たれ、さらにそれがニホンミツバチのロイヤルゼリーに含まれていることを菅原さんは発見した。ロイヤルゼリーは女王バチになる幼虫の食べ物。花粉や蜜を栄養にする働きバチが、自らの大顎腺(だいがくせん)から分泌して幼虫に与える。「なぜロイヤルゼリーに含まれる匂い物質がハチたちをこのように引き付けるかは、今後の研究課題です」と菅原さん。オバチが花に集まる行動は、花を女王バチと間違えているのかもしれないと考えている。
キンリョウヘンにとっては受粉以外のメリットもありそうだという。菅原さんは、受粉後のキンリョウヘンの花を一晩温めると、その後に種子の形成が促進されることを確かめた。「ニホンミツバチが集結したとき、その中心温度は36度を超える。群れで花を温めて種子の形成に一役買っているのではないか」。菅原さんは今後これらの仮説を検証し、論文にまとめることにしている。
取材協力:神戸大学大学院理学研究科生物学専攻研究員 理学博士 菅原道夫
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