共に生きる「アカマツとマツタケ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
芳しい香りで秋の味覚を代表するマツタケは、文字通りアカマツなどマツの木の下の地上に生える。その本体は木の根に付着して共生する菌で、カビの仲間だ。森林総合研究所のきのこ・微生物研究領域長の根田仁さんは「私たちが“マツタケ”と呼んで食べているのは植物で言えば花の部分に当たり、繁殖をするためのもの。傘の下に付いている胞子が飛んで土の上に落ちると、そこから菌糸を伸ばして成長します」と語る。
共生関係について根田領域長は「土の中に菌糸を張り巡らすマツタケは、マツの根が届かない所からも水分やミネラルなどマツに必要な成分を吸収し、根に送り込みます。自然に生えるマツは、自分の根だけではこれらを十分に吸い上げることはできず、生きていくことができません。逆にマツタケは、マツが葉で光合成を行って生成したブドウ糖などの糖分を与えてもらい、養分としています」。同研究所できのこの遺伝子を研究する村田仁さんは「マツにはマツタケなどの共生菌は必要不可欠な存在で、人間の健康に必要な腸内細菌のようです」と話す。
マツタケの特徴は、花崗岩のがれきの中や砂地のような荒れた場所にも生えるとのこと。栄養豊富な土では、成長の早い他の微生物に負けて育つことができない。松林が落ち葉で満たされ土壌中の栄養分が豊かになると、マツタケは勢いを失い、ほかの微生物が繁栄してくる。マツタケにとって温暖化も大敵だ。さらに、松枯れも大きな影響があるようだ。
今、多くの松林が衰退している。長年、落ち葉をかき集めて燃料や肥料に利用してきた松林に、人の手が入らなくなってしまい、土壌環境が変わったことも一因らしい。「人工栽培の研究も進んでいるが、松林の保全も大切にしていきたい」と二人の研究者は願っている。
取材協力: 独立行政法人 森林総合研究所
きのこ・微生物研究領域 領域長 根田仁
きのこ研究室 主任研究員 村田仁
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- Webマガジン|Science Window2014年秋号「特集 つなげる科学」