共に生きる「アカシマシラヒゲエビとユカタハタ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
色鮮やかな魚やサンゴが美しい熱帯の海。岩陰でたたずむ一匹の魚の少し先には、長いヒゲをゆらめかした小さなエビがいる。エビは逃げ隠れするどころか魚に寄っていき、その体をつつき始めた。体の上を這い回りながら、エラの中、口の中までくまなくつついている。気持ち良さそうにじっとしている魚は、エビを食べることはない。
「エビなどの甲殻類や小さい魚たちは、魚に付く寄生虫を食べるので、さまざまな組み合わせの共生関係があります。アカシマシラヒゲエビとユカタハタもその一例です」と話すのは甲殻類が専門の研究者、奧野淳兒さん。「エビにとっては寄生虫を食べられる上に、天敵から守られる利点もあります。なぜ魚が、自分をクリーニング(掃除)してくれる生き物を食べないかについては、独特の動きや形を目印にしているという説もありますが、詳しくはまだ分かっていません」
アカシマシラヒゲエビが魚をクリーニングをするのは岩穴の中などで、あまり広い範囲には移動しない。魚たちは寄生虫が相当なストレスになっているらしく、入れ替わり立ち替わりエビのいる岩穴にやって来るという。
「この魚たちを狙う生き物がいるのです」と奧野さん。ニセクロスジキンポという小魚はクリーナーのホンソメワケベラとそっくりで、クリーニングをさせるつもりの魚のウロコやエラを食べてしまう。また、アカホシカクレエビにすみかを提供しているイソギンチャクが、エビにクリーニングしてもらいにやって来る魚をちゃっかり食べてしまうこともあるそうだ。
「陸地の生物に比べて海の生物の研究はまだ始まったばかり。日常生活とは違う驚きにあふれる世界を、磯遊びやダイビングを通して多くの人に体験してもらいたい」と奧野さんは話している。
取材協力:千葉県立中央博物館 分館海の博物館 主任上席研究員 奧野淳兒
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