共に生きる「ミヤマシジミとクロオオアリ」
地球を彩る多様な生物。それぞれの生物は、複雑なつながりの中で生きている。特に密接なかかわり合いを見せるのが、共生といわれる現象。生物が織りなす、共生の世界をシリーズで紹介する。
「アリたちにとってミヤマシジミの分泌する蜜は大変“魅力的”なようです」と語るのは富士山自然保護センターの渡辺通人・自然共生研究室長。40年以上にわたり富士山の動植物の生態の観察や研究を続け、保護活動のための提言を行っている。
ミヤマシジミとアリとの関係については「ミヤマシジミの幼虫は背中から甘い蜜を分泌し、クロオオアリなど複数の種類のアリを集めます。アリがいつもそばにいることで、幼虫はハチの捕食やハエの寄生などから守られているのです。アリとの共生関係がなくても成虫になることはできるのですが、アリと共生している幼虫の方が羽化率は高いですね」と話す。
「魅力的」とはどのようなことなのだろうか。「2003年に行った観察では、ミヤマシジミの特定の幼虫に接触するクロオオアリは、ほとんど特定の1~2頭に限られていました。幼虫がさなぎになるまでの間、これらの同じアリが触角で幼虫をトントンと軽く叩く動作(タッピング)をしながら、まるでお世話係のように寄り添っていたのです。それは実に観察時間の9割以上にものぼりました」
さなぎになる時から羽化にかけても不思議なことが観察された。「幼虫は通常コマツナギという低木の葉や花を食べているので、その木の上でさなぎになるといわれていたのですが、観察した幼虫はクロオオアリ数頭を連れて、その巣穴の入り口付近に入っていってさなぎになりました。さらに驚いたことに、羽化が始まったときにはお世話係のアリがやって来て励ますようにタッピングを続け、羽化が終わるまで見守っていたのです。アリがなぜ巣穴でさなぎになることを許したり、羽化を見守ったりするのかはまだよく分かっていませんが、本来は捕食者であるアリの特定の個体との共生は、究極の共生ともいえるのではないでしょうか」。渡辺研究室長は、この共生関係の謎を解明すべく、広島大学と共同で研究を続けている。
取材協力:特定非営利活動法人(内閣府認証)富士山自然保護センター理事・自然共生研究室長 渡辺通人
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