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サイエンス読み物

似姿違質「ヤマノイモ VS ナガイモ」

Science Window 2012年秋号(2012年、6巻3号 通巻47号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 すりおろした生の芋(いも)をだし汁でのばし、温かいご飯にかける。日本人特有のとろろ芋の味わい方である。とろろ芋は総称して山芋(やまいも)とも呼ばれるが、その山芋類の名称にはいささか混乱があるようだ。

 八百屋に並び、私たちが頻繁に口にするのは棒状のナガイモ。ナガイモは中国の雲南省(うんなんしょう)が原産といわれ、日本には栽培種として伝来した。品種には熊手(くまで)のような形の銀杏芋(いちょういも)〔関東では大和芋(やまといも)〕や、握り拳(こぶし)のような形のつくね芋(関西では大和芋)などがあるが、皆同じ種である。
 一方で、ナガイモと別種の日本原産のヤマノイモがある。自然薯(じねんじょ)とも呼ばれ、北海道を除く日本列島の山野(さんや)に自生する。芋は食用によく採取されている。

 両者はともに多年生のつる植物。葉形の違いで見分けはつくが、近縁で生態は似ている。雄株(おかぶ)と雌株(めかぶ)があり、夏には葉と茎の間に小さなむかごができて白い花が咲く。花が終わると雌株に翼を持つ種子ができる。葉の色が黄に変わる秋に種子が散布され、成長したむかごが地面に落ちる一方、地下の芋〔坦根体(たんこんたい)〕は栄養を蓄えて太る。繁殖は、種子による有性繁殖と、むかごや種芋(たねいも)による栄養繁殖の両方で行われるのだ。

 つる植物というが、山野を歩くと1枚の葉だけで存在するヤマノイモを見かける。なぜだろう。ヤマノイモの生態を研究する茨城大学の堀良通教授は、「山芋類は、地下の種芋の大きさを自分で察知して1枚の葉で発芽するか、つる茎でするかを選択します。実生(みしょう)や小さな種芋からは1枚の葉で発芽するので、実際にそういう個体に出会うのです。またヤマノイモよりナガイモの方が自分の種芋が大きくないとつる茎では発芽しません」。両者のその違いは、その後の成長や繁殖にどんな意味を持つのだろう。「それは分かりません。身近な自然を観察すると多くの不思議と遭遇します。山芋類もその一つ。どなたか研究してみませんか」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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