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サイエンス読み物

似姿違質「キンギョ VS フナ」

Science Window 2012年夏号(2012年、6巻2号 通巻46号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 夏の風物詩といえば艶(あで)やかな金魚。和金(わきん)、出目金(でめきん)、琉金(りゅうきん)、蘭鋳(らんちゅう)……。日本には22、海外を含めると100を超える品種があるが、これらはすべてただ1つの種(しゅ)のキンギョである。

 金魚の歴史は今から1700年以上も昔、中国で始まった。大陸のヂイ(鯽)という系統のフナが突然変異して生まれた赤い色のヒブナから金魚がつくられたのが起源である。その後は縁起物の観賞魚として多彩な形や色の金魚が育種された。

 日本に渡って来たのはおよそ500年前の室町時代。和風の姿や形を追求して日本でも独自の育種が進められてきた。当時は武士の楽しみとして飼われていたが、江戸時代になって庶民に普及し、今に至る。

 一方、フナは田んぼや釣堀でおなじみだが、種(しゅ)としては多様性に富むコイ科の淡水魚である。日本に生息するフナといえば固有種のゲンゴロウブナと大陸由来のギンブナ、キンブナなどが代表的だ。フナには雌雄(しゆう)で繁殖するタイプと、メスだけで繁殖するクローンタイプが存在する。ギンブナの多くは後者で、ドジョウなどのオスの魚に精子をかけてもらい、その遺伝子は受け取らず、刺激だけを受けて卵を産む。金魚の祖先であるヂイもこのクローンタイプのフナである。

 東京農業大学第一高等学校教諭の川澄太一先生は、「突然ヒブナを発生させるなど、変異を起こしやすいフナは、活発な進化の最中にある魚なのかもしれません。そんなフナの不安定な遺伝の仕組みを受け継いでいるから、金魚も突然変異を頻繁に引き起こし、多彩な品種をもたらすのではないでしょうか」と解説、「金魚もフナも身近な魚なので、ぜひ長く深く触れ合って、命の尊さや、遺伝の仕組みなどを実感してほしいですね」と話す。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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