似姿違質「ゼンマイ VS ワラビ」
里山の雪が解けると、山菜採りのシーズンがやって来る。ワラビやゼンマイは山菜の代表格で、どちらも胞子で増えるシダ植物。若い芽を選んで摘んで調理すると、春の香りと柔らかな食感が楽しめる。
ワラビは北半球の温帯域に広く分布し、少し日の当たる野原や林に育つ。根茎(こんけい)(地下の茎)が横に長く伸びて群生する。成熟した葉の裏側には縁(ふち)に沿って胞子が付く。
また、ゼンマイは東アジアの平地から山地に広く分布する。根茎は太く塊状(かいじょう)で単独で生える。1つの株から光合成で栄養を得る葉(栄養葉)と胞子を付ける葉(胞子葉)の2種が伸びるが、味が良いのは栄養葉の若芽である。
シダ植物は湿った場所を好み、地球上に1万種ほど存在する。最初に出現したのは4 億年以上も昔のことで、その後登場した種子植物とは異なる生殖の仕組みがある。ふつうシダといって私たちがイメージするのはシダ植物の「胞子体(ほうしたい)」のこと。右のイラストも胞子体を描いている。しかし、シダ植物には、胞子体の発芽を導くための「前葉体(ぜんようたい)〔配偶体(はいぐうたい)〕」という、生殖を担う世代が存在する。前葉体は湿った土に張り付くように生えるハート型の芽のようなもの(直径8ミリくらい)である。
ワラビやゼンマイは、なぜ湿った土地で見つかるのか? 「その答えは、シダ植物の生殖の仕組みにあります」と、シダを研究している千葉県立佐原高等学校の谷城勝弘先生は言う。「成熟した葉から胞子がこぼれると、土の水分に反応して前葉体が発芽します。前葉体は成熟すると、その中で卵細胞と精子を作り、やがて精子だけが外に出て湿った土の上を泳ぎ、他の前葉体の卵細胞と結ばれます。受精すると前葉体から胞子体が発芽して成長し、春にはおいしい若芽が顔を出すというわけです」
シダの不思議な生き方を知って楽しむ山菜の味は、格別かもしれない。
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
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- Webマガジン|Science Window2012年春号「特集 ジオの旅に出よう」