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サイエンス読み物

似姿違質「ウミガラス VS アデリーペンギン」

Science Window 2012年早春号(2011年、5巻6号 通巻44号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 まるでタキシードを着た人間のようにヒョコヒョコと歩くペンギン。そのコミカルな姿は動物園や水族館で人気の的だ。

 現在ペンギン科に属する17種ほどのペンギンは、すべて南半球に生息しているが、「日本にも野生のペンギンがいる」と聞くことがある。北半球北部に広く分布するウミガラスというウミスズメ科の海鳥である。日本では夏は天売島(てうりとう)で繁殖する姿が、冬は北海道の外洋を泳ぐ姿が見られる。小さい翼で海中を泳ぎ、小魚やイカなどを捕食する。小柄だがペンギンに似た流線形の体形で、地元では“北のペンギン”と呼ばれている。だがペンギン科のペンギンとは違って、大空を時速80キロメートルものスピードで飛ぶことができる。

 ウミスズメ科には他(ほか)にオオウミガラスやオオハシウミガラスなどがいるが、特にオオウミガラスは大きくて飛べないため、ペンギンと瓜二(うりふた)つだった。しかし、200年ほど前に乱獲(らんかく)が原因で絶滅した。

 ペンギン科の中でも背中が黒くおなかが白で、特にウミガラスと似ているのが、南極にすむアデリーペンギンだ。体は大きく羽が小さい泳ぎに適した体形で、海中でオキアミを捕って食べている。年間の大半は海にいるが、南極では夏に当たる11月から2月にかけて、子育てのため陸に上がる。

 北海道大学で海鳥を研究する綿貫豊准教授は、「一口に海鳥といっても、祖先は一つではありません。ペンギンの祖先はどちらかといえばアホウドリの仲間に近く、ウミガラスの祖先はカモメに近い。両者は近縁ではないんですよ」と話す。

 ではなぜ似ている? 「よく分かっていません。姿は一見似ていますが、両者には多くの違いがあります。違いに注目するのも科学の大切なポイントです」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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