似姿違質「マチカネワニ VS コモドオオトカゲ(コモドドラゴン)」
干支(えと)の「辰(たつ)」は架空の動物「龍(りゅう)」である。「架空でも、実在の動物からイメージを得ていると考えるのが自然です。600年ほど前に中国で絶滅したマチカネワニが龍の起源」と説明するのは、ワニ学者の青木良輔氏である。太古より東アジアの温帯域に生息していた巨大なワニで、1964年に大阪府の待兼(まちかね)山にある大阪大学豊中キャンパスで化石が採取されたことからこの名が付いた。
3千年ほど前の殷(いん)(商)で亀甲(きっこう)や獣骨に刻まれた甲骨(こうこつ)文字にワニの姿を摸したと思われる文字が刻まれており、「龍」という文字がワニを表すことは、すでに中国の学者による文字分析で分かっていた。中国に生息したワニは2種とされ、1種は現存する小型のヨウスコウアリゲーター、もう1種がマチカネワニであることを、待兼山の化石と最近中国で出土した遺骸(いがい)から青木氏が突き止めた。
では、なぜ現在ワニは漢字で「鰐」と記すのか。「中国では殷の後、龍が神聖化され皇帝の象徴となった反面、ワニは獰猛(どうもう)さゆえに駆除の対象になった。神聖な『龍』を『鰐』にすり替えることで駆除を正当化したのでしょう」と青木氏は推測する。
「一方で西洋にも古くから、東洋の龍の起源とは別の流れで、火を吐く架空の動物への信仰がありました。西洋のドラゴンのイメージはオオトカゲが舌を出し入れする様子からの着想かもしれません」
コモドオオトカゲは、インドネシアのコモド島やフローレンス島に生息する肉食の大型トカゲで、神聖なドラゴンと呼ぶにふさわしい現存の動物である。
「科学の目で古い文献と出土物を見直してみると、昔の人のとらえ方から真実が突き止められることもあると、マチカネワニが伝えている気がします」
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
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- Webマガジン|Science Window2011年冬号「特集 めぐりめぐる炭素」