レベル
サイエンス読み物

似姿違質「トチノキ VS ニホングリ」

Science Window 2011年秋号(2011年、5巻4号 通巻42号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 トチノキ(栃の木)は、標高の高い深山に群生する大型の落葉広葉樹(らくようこうようじゅ)である。

 秋になると枝先にたくさんの果実を付け、実(み)が熟すと殻(から)がはじけて大粒のクリのような種子を落とす。トチノキを題材にした絵本『モチモチの木』には、そんな情景がみずみずしく描かれている。

 形がクリに似ているので思わず拾って食べてしまいそうだが、生のトチの実をかじれるのはアカネズミぐらいで、人間がそのまま食べたら苦~い毒で腹痛を起こしてしまう。苦味の主な成分はサポニンという化学物質で、アカネズミはこの成分を分解できるようだが、丸ごとは食べずに、少しかじって落ち葉の下に浅く埋める。

 樹木の生態を研究している谷口真吾さん(琉球大学教授)は、「分布域を広げたいトチノキにとって、多少かじられても発芽に必要な胚(はい)の部分を残して運んでくれるアカネズミの存在はありがたい。両者は持ちつ持たれつの関係を築き、共に進化してきたのでしょうね」と話す。

 一方、秋の味覚でおなじみのクリ。栗園では立派なイガを付けた背丈5メートルほどの木を見かけるが、これらは木の生長を抑えて、大きな種子がたくさん実るように育種された栽培栗。ここで紹介するニホングリは、背丈が20メートルほどにもなる高木の落葉広葉樹で、標高の低い里山などに群生する野生のクリだ。種子は小粒だが、栽培栗同様に栄養価の高いでんぷんを多く含み、生で食べても甘みがある。

 「そんなおいしいクリに似たトチの実を何とか食用にしようと、古代の人は知恵を絞ったのかもしれません。長時間手間暇かけてアク抜きをした粉で作った栃餅(とちもち)は、東北などの各地で今も愛されています。トチの実を大切な食料として活用する食文化が日本には根付いています」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

関連リンク

一覧に戻る