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サイエンス読み物

似姿違質「シオカラトンボ VS ツノトンボ」

Science Window 2011年夏号(2011年、5巻3号 通巻41号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 童謡にも歌われるように、トンボの美しさは郷愁を誘う。しかしその生き方たくましく、4枚の翅(はね)ですいすい飛びながら、大きな眼(め)で巧みに獲物をとらえている。

 トンボは、幼虫(ヤゴ)時代は水中で暮らし成虫になると地上で暮らす肉食虫。祖先は3億年ほど前に登場していたというから、現存する昆虫ではかなり古株のようである。

 現在日本で200種以上生息するトンボの中で、シオカラトンボは晩夏をピークに春から秋、各地の田畑や草むらなどで身近に見られるトンボである。雌雄(しゆう)で胴体の色が異なり、成熟したオスは腹部が白く尾の近くが黒、メスや若いオスは俗に「ムギワラトンボ」と呼ばれ、黄土色の地色の上に黒い模様があしらわれている。

 草むらなどで、このムギワラトンボにそっくりな、ツノのような触角を持つ昆虫を見かけることがある。これがツノトンボ。トンボの仲間ではなくアリジゴクで有名なウスバカゲロウの仲間である。成虫も幼虫もトンボ同様の肉食昆虫だが、幼虫はヤゴと違って陸生で、アリジゴクのような巣は作らないが、体形はアリジゴクによく似ている。

 変態の仕方にも違いがあり、幼虫から成虫になる直前に脱皮するトンボに対して、ツノトンボは蛹(さなぎ)になってから成虫になる。蛹を経るツノトンボのグループは、蛹を経ずに成虫になるトンボより少し後(あと)に地球上に出現したと考えられている。

 それにしても、なぜツノトンボはトンボに似ているのだろう。トンボ研究家の杉村光俊さんは、「ムギワラトンボもツノトンボも水際近くの草原などにすむ昆虫です。生息環境やエサが似ていれば、その状況に適応した姿形のものが生き残るのは自然なこと。近縁ではない両者の姿が似ていてもおかしくないと思いますよ」と話す。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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