似姿違質「ニホンザリガニ VS アメリカザリガニ」
田んぼや池でザリガニを釣った経験のある人は多いだろう。ザリガニは子どもたちに人気のエビ・カニの仲間である。
淡水(たんすい)にすむザリガニの祖先をたどると数億年前の海に行き着く。海で生まれ海で進化したものは現在のロブスターなどになり、3億年ほど前に川に上(のぼ)ったものが、現在世界に数百種もいるザリガニの元(もと)となった。
今の私たちが身近に触れるザリガニは、昔から日本に生息していたわけではない。1927(昭和2)年に米国ニューオリンズから食用ガエルの餌(えさ)として持ち込まれた20匹ほどの「アメリカザリガニ」が、瞬(またた)く間に繁殖し日本中に広まった。
一方日本には昔から、固有の在来種「ニホンザリガニ」がすんでいる。現在は北海道と東北の一部で、不純物をほとんど含まないきれいな川の源流域で絶滅寸前(すんぜん)の命をつないでいる。「実はこのニホンザリガニが原種に一番近いザリガニなんですよ」と話すのは、ザリガニ博士として有名な稚内(わっかない)水産試験場の川井唯史さん。外来種のアメリカザリガニは、ニホンザリガニのグループから後(のち)に分岐した種であることが、飼育して形態の観察を重ねることで分かってきたと言う。
本来ザリガニは雑食なので肉なども好むのだが、ニホンザリガニは天敵の鳥や魚が訪れることのない栄養の乏しい川の源流で、バクテリアが付着した落ち葉などを餌にしながら細々と暮らしている。
一方は日本中に分布域を広げ、他方は絶滅寸前というこの違い。ニホンザリガニは清水(しみず)でしか生きられない。アメリカザリガニは汚水(おすい)に強い。水環境が悪化しつつある現在、両者の分布のバランスはますます崩れている。
「ザリガニは、生物進化から環境問題まで考えさせてくれる身近な題材です」と川井さん。
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2011年初夏号「特集 上手に泳ぐってどういうこと?」