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サイエンス読み物

似姿違質「ボタン VS シャクヤク」

Science Window 2011年春号(2011年、5巻1号 通巻39号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 「立てば芍薬(しゃくやく)座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合(ゆり)の花」。美人の姿を形容する言葉だが、ここで紹介するボタンとシャクヤクは、春の盛りの庭園でひときわ映える艶(あで)やかな園芸植物である。

 どちらも原種のほとんどは中国周辺に分布し、1300 年ほど前に遣唐使(けんとうし)が薬用として日本に伝えたと考えられている。両者は近縁種だが、ボタンは桜が終わるころに咲く樹木〔木本(もくほん)〕であり、シャクヤクはそのほぼ半月後に開花する草〔草本(そうほん)〕である。江戸〔元禄(げんろく)〕時代に育種がブームとなり、以降、花の色や咲き方、大きさ別にさまざまな品種が開発されてきた。

 日本ボタンは、「芳紀(ほうき)」「島大臣(しまだいじん)」「連鶴(れんがく)」などを代表に約50品種が出回っている。島根県東部の中海(なかうみ)に浮かぶ大根島(だいこんじま)〔松江市八束(やつか)町〕が日本一の生産量を誇っている。「大根島の土壌は、大山(だいせん)(鳥取県)の火山灰が主成分なので水はけが良く、ボタン栽培に適しているんですよ」と、ボタンの育種を研究している青木宣明先生(島根大学教授)は話す。

 一方、日本のシャクヤク〔和芍(わしゃく)〕の代表品種には、「金的(きんてき)」「花香殿(かこうでん)」「滝の粧(よそおい)」などがあり、中には翁(おきな)咲きといって雄しべが花びらのような咲き方をする変わり種(だね)もある。生産量は新潟県がトップ。19世紀以降に西洋で育種された欧米の品種〔洋芍(ようしゃく)〕は、和芍よりも豪華なものが多く日本でも人気がある。

 両者には実は不思議な関係がある。明治時代にボタンの量産を目的に、初期成長の旺盛なシャクヤクの根にボタンの芽を接(つ)ぐという生産技術が日本で開発されたのだ。「草に木を接(つ)ぐとは、まさに木に竹を接ぐような話ですが、既成概念にとらわれず挑戦した結果、功を奏したという典型的な話ですね」と、青木先生は笑う。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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