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サイエンス読み物

似姿違質「シロウオ VS シラウオ」

Science Window 2011年早春号(2011年、4巻7号 通巻38号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 寿司(すし)ダネやつき出しなどに登場する、あの白く透き通った小魚は、シロウオ、シラウオ、それともシラス? 

 どれも早春が旬の魚である。シラス(白子)はイワシやイカナゴの稚魚(ちぎょ)だが、シロウオ(素魚)とシラウオ(白魚)はれっきとした成魚(せいぎょ)。名前も姿も食べ方もよく似ているが、シロウオはハゼの仲間で、シラウオはサケの仲間というように、分類上は全然違う魚なのだ。

 シロウオは、日本列島および朝鮮半島南部に分布する海水魚。普段はアマモ場などの海の浅瀬に生息しており、産卵する春先に川を上る。西日本の早春の風物詩として、和歌山県の広川(ひろかわ)や福岡県の室見川(むろみがわ)などの河口で、川を上る群れをすくう漁が親しまれている。

 一方シラウオは、北海道から熊本まで、さらには中国や朝鮮半島にも分布するが、日本では主に東日本で親しまれる魚である。以前はシロウオと同様に、産卵のために海から川に上る魚だと考えられていたが、最近の研究で生涯を汽水(きすい)域で過ごす魚だと分かってきた。産地は茨城県の霞ヶ浦(かすみがうら)や島根県の宍道湖(しんじこ)などの汽水湖が代表的だ。かつて江戸の春の風物詩として愛されていた隅田川(すみだがわ)のシラウオ漁は、姿を消して50年ほどになる。

 シロウオもシラウオも代表的な漁法といえば四(よ)つ手網(であみ)。傘を逆さにしたような四角い網を川に沈め、上ってくる魚をすくい取るこの漁法は、適度な量を漁獲するという、先人たちの知恵が生きている。

 三洋テクノマリン(株)で魚の生態を調べている永友繁さんは、「どちらも希少な魚ですが、継承してこその食文化。漁をやめるのではなく管理しながらおいしく食べる姿勢が大切だと思います」と話す。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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