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サイエンス読み物

似姿違質「ヨーロッパアナウサギ VS ニホンノウサギ」

Science Window 2010年冬号(2010年、4巻6号 通巻37号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 ウサギは、その長い耳、丸い瞳が愛らしく子どもたちに人気の小動物である。日本にはノウサギなどの野生種が4種生息しているが、身近なのは、学校やふれあい動物園などで見られるカイウサギだ。

 カイウサギのルーツは、ヨーロッパのイベリア半島周辺に今も生息する野生のアナウサギである。つまり、実験用やペットショップにも並ぶカイウサギの原種は、すべてこのアナウサギなのだ。英国の絵本『ピーターラビット』のモデルともいわれるが、アナウサギは元来(がんらい)英国にいたわけではない。人がヨーロッパ(12世紀ごろ)やオセアニア(19世紀)の各地に食用などとして持ち込んだウサギが野生化し定着した。やがて各地で農地を荒らす害獣(がいじゅう)となり、現在は駆除(くじょ)の対象になっている。

 一方ノウサギは、世界で30種ほど生息しており、北極から熱帯砂漠地帯まで広範囲に分布する。ここで紹介するニホンノウサギは日本の固有種で、本州、四国、九州の森林や原野などで見られる。

 アナウサギの赤ちゃんは、毛のない裸(はだか)の状態で生まれ、巣穴の中で群れに育てられる。ノウサギの赤ちゃんは、毛が生えた発育状態で生まれる。ノウサギは、巣穴も群れも作らず、餌になる草木の豊富な地域を移動して生活する。アナウサギよりも行動範囲が広く俊敏なので家畜には向かない。両者の生態の違いは大きいが、どちらも草食で、天敵はイタチやワシなど。

 「ウサギの生態を観察しませんか? カイウサギは繁殖力が強いので増え過ぎないようにするには、オスとメスを分けて飼育するといいでしょう」と、(独)森林総合研究所でウサギの生態を研究している山田文雄氏は話す。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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