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サイエンス読み物

似姿違質「スダチ VS カボス」

Science Window 2010年秋号(2010年、4巻5号 通巻36号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 脂(あぶら)ののった焼き魚に、スダチやカボスの果汁をキュッと絞る。その瞬間に漂う清々(すがすが)しい香りは、何とも食欲をそそる。

 スダチ(酸橘)もカボス(香母酢)も「酢みかん」と呼ばれ、一般的には料理に酸味を添える酢のような役割で利用される果実である。酸味の主成分はクエン酸で、酢酸(さくさん)が主成分の酢よりもまろやかで優しい風味だ。また、柑橘(かんきつ)系独特の香りとの相乗効果で、漬物、味噌汁、素麺(そうめん)などの和食の引き立て役として重宝される。

 どちらも奈良時代以前に大陸から渡来したといわれるユズの近縁種であり、旬は初秋。スダチは数百年前に徳島県に根付き、雨が多く昼夜で気温差のある神山(かみやま)町や佐那河内(さなごうち)村の一帯で栽培されている。カボスも同じころ大分県に根付き、主に臼杵(うすき)市や竹田市などで栽培されている。

 酸味の成分や味にも大きな違いはなく、添えられる料理も似ているが、両者の香りを嗅かぎ比べると違いは明らか。スダチを研究している徳島大学大学院の高石喜久教授は、「香りに複雑な深みを感じさせるスダチは、香り成分の種類が豊富なのが特徴で、料亭などでもよく使われます」と話す。一方、大分県豊肥(ほうひ)振興局でカボスの栽培指導をしている山口竜一さんは、「香りが爽やかで癖がないので、酢の代わりとしてカボス果汁を、寿司酢や三杯酢に利用している家庭もあります」と話す。

 酢みかんというと世界ではレモン、日本ではユズが代表格だが、その土地土地にさまざまな柑橘類がある。日本での生産量はユズ、スダチ、カボスの順。「スダチもカボスもその土地の環境や人々の生活に根付き、文化や産業として発展した果実なんですよ」と高石教授。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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