似姿違質「ヒガシキリギリス VS トノサマバッタ」
「…チョッ、ギーッチョッ」。夏になると草が深く茂った薮地(やぶち)などで、こんな虫の音(ね)を耳にする。声の主はキリギリス(螽斯)。本州から九州に分布するバッタの仲間で、鳴く虫の代表格だが、東西の地域でわずかに形の違いがあり、近年ではヒガシキリギリスとニシキリギリスに分けられている。
キリギリスは、秋よりも夏、夜よりも日中に盛んに鳴くのが特徴だ。秋の夜長を象徴する虫の音として古典や俳句などに度々登場する「キリギリス」は、コオロギのことであると考えられている。
同じく夏に、薮地よりも草のまばらな河川敷や空き地などでは、トノサマバッタ(殿様飛蝗)をよく見かける。全国に分布し、ひときわ大きく威風堂々とした姿が子どもたちに人気のバッタである。
トノサマバッタのオスも「ジジジ」と鳴くが、一瞬で地味なので、私たちがその声を耳にするチャンスは少ない。草食でイネ科植物の葉を好むトノサマバッタは、飛ぶことに長(た)けた羽を持ち、必要であれば一度に数百メートルも飛び移動をする。
一方キリギリスは、若い幼虫のころこそ草食だが、成長するにつれて肉食の性質が増す。羽は鳴くための道具であり、飛ぶことはない。羽同士をこすり合わせて鳴くが、鳴くのはオスだけ。だが、不思議と耳はメスにもある。
彼らはなぜ鳴くのだろうか。バッタや鳴く虫を調べている内田正吉さんは、「鳴き方にいくつかパターンがあり、メスへのアピールや縄張りの主張など、目的はいろいろあるようです。でも、鳴くのは繁殖時期だけなので、生殖にかかわっていることは確かでしょう」と話す。
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
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- Webマガジン|Science Window2010年夏号「特集 いろんな生き物がいて私たちがいる」