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サイエンス読み物

似姿違質「ニリンソウ VS ヤマトリカブト」

Science Window 2010年春号(2010年、4巻1号 通巻32号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 新緑のころの野山は野草の宝庫。山すその土壌(どじょう)の湿った日陰などを歩くと、白く清楚な花々の群生に出合うことがある。早春に花を咲かせ、夏前にはしぼんでしまう“はかない命”として親しまれるニリンソウ(二輪草)である。先端に二輪の花をつける(例外もある)のが、その名の由来だ。背丈は高くても30センチほどで、日本全国の山林などに広く分布する。高地ではイチリンソウやサンリンソウも見られるが、希少種でめったにお目にはかかれない。白い花びらのように見える部分は、実は萼(がく)で、本来の花弁(かべん)は蜜腺(みっせん)のようなものに変化していて目立たない。

 若い葉は茹(ゆ)でるとシャキシャキした食感で、特に東北地方では「お浸(ひた)し」などで楽しむ山菜として人気がある。ところがニリンソウの葉は、なんとあの猛毒のトリカブト(鳥兜)の若芽と瓜二(うりふた)つなのだ。

 トリカブトは、秋になると紫色の華麗な花をつけ、背丈も1メートル前後になるが、春の芽吹きのころは背丈も生息環境もニリンソウとよく似ていて、両者が混在することも多い。

 トリカブトの仲間は日本でも数種分布しているが、本州ではヤマトリカブトがよく見られる。トリカブトの毒は、人(動物)の神経を直撃する、植物毒の中でも特に毒性の強い物質。根をはじめ、春の若芽にも、秋に咲く花の蜜に至るまで、全体に含まれている。解毒(げどく)方法はいまだないので、もし、採取したら絶対に口にしないよう注意が必要だ。

 見分け方を、お茶の水女子大学客員教授の佐竹元吉氏に伺った。「まずは根を抜いて観察し、サツマイモ状の塊(かたまり)であればトリカブト。安全のために、花が咲いたニリンソウの葉だけを摘(つ)むことです」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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