似姿違質「ウミウ VS カワウ」
鵜(う)といえば、まず鵜飼(うかい)をイメージする人も多いだろう。特に岐阜県長良川(ながらがわ)の鵜飼は夏の風物詩として有名である。
ところが野生のウミウは、冬場に、本州以南の海辺の岩礁(がんしょう)などで見かける。一方カワウは、海岸から内陸にかけてのコロニー(集団繁殖地)やねぐらで、木などに止まっている姿を一年中見ることができる。ウの仲間は、極地と乾燥地帯を除く世界中に40種ほど生息しており、日本ではそのうちの4種がいて、主にカワウとウミウが観察しやすい。
その和名から、海にいるウミウ、川にいるカワウ、と連想しがちだが、実際には海にもカワウがいて、ウミウも内陸にいることがある。どちらも魚類中心の肉食だが、淡水魚も海水魚もこだわらずに食べる。その証拠に、長良川の鵜飼で懸命に鮎(あゆ)を捕っているウはウミウである。
鵜飼は、古代よりアジアを中心に広く分布している漁法だが、7世紀初頭の日本の実情を述べた中国の史書『隋書倭国伝(ずいしょわこくでん)』に、「鳥が日に100匹の魚を捕る、変わった漁法」と、日本の鵜飼の存在を示した最古のものといわれる記述がある。今の日本では漁法としてより、むしろ観光資源や伝統文化として、鵜飼の様式は守られ継承されている。
ところで、長良川の鵜飼は、なぜウミウなのか? 長年ウを研究している葛西臨海水族園学芸員の福田道雄さんは、「ウミウはカワウより一回り大きいから漁獲量も多い、これが一つの理由でしょう。でも生物学的理由より、現在鵜飼いが残っている場所が、伝統的にウミウを使う場所であったという、むしろ、人間側の都合が大きいんですよ」と話す。
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2010年早春号「特集 理科室から始まる知の冒険」