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サイエンス読み物

似姿違質「トラ VS ライオン」

Science Window 2009年冬号(2009年、3巻5号 通巻29号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 ネコ科最大の肉食獣を2種紹介しよう。

 まずはトラ。生息地はシベリアから中国、インド、中央アジア、インドネシアの密林や藪地(やぶち)である。ネコ科の動物は、単独行動が特徴で、トラも通常は群れを作らず単独で行動している。好物は、野牛などのウシ類だが、シカやイノシシ、サルやクジャクなども獲物にする。私たちの目に一際(ひときわ)美しく映る、あの独特のシマ模様は、薮の中では周囲に溶け込み、獲物に気付かれずに忍び寄るのに好都合だという。

 強さでトラに引けを取らない動物が百獣の王といわれるライオンだ。ライオンの生息地は、主にアフリカのサバンナ(乾いた草原)。獲物は、同じサバンナにすむ草食獣で、ヌーやシマウマ、シカ類などである。ライオンはネコ科動物では珍しく群れを作る。開(ひら)けた地で狩りをするには単独よりも群れの方が効率的なのだろう。

 ところで正月の縁起物、獅子舞(ししまい)の「獅子」の由来は? ねこの博物館館長の今泉忠明氏に尋ねたら、「諸説ありますが、獅子は架空の動物で、遠い西の地にすごく強い動物がいるらしいと噂話で伝わってきた伝説の動物なんです。そのモデルは、本(もと)をただせばライオンのはずですよ」とのこと。
 トラもライオンも最強で、怖い者なしのはずなのに、今では絶滅寸前の希少動物。密猟で個体数が減り、さらに森は伐採され、サバンナは農地や牧場に塗り替えられるなどと、生息環境はどんどん侵されている。「こんなに美しく勇敢な姿で私たちを魅了するトラやライオンが、もしこの地球上から消えてしまったら寂しいですよね。私たちは今、何ができるのか考えてみませんか」と、今泉さん。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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