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サイエンス読み物

似姿違質「オオモモブトスカシバ VS セイヨウミツバチ」

Science Window 2009年夏号(2009年、3巻3号 通巻27号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 ハチに刺されたら痛い目に遭う。だから、ハチのようにしま模様の胴体で、透けた羽を震わせながらブーンと近づいてくる虫を見ると、とりあえず逃げるという人も多いだろう。人だけでなく、昆虫が大好物の鳥や小動物たちも、この手のルックスは避けているのかもしれない。「だったら自分もハチに似せて、天敵に逃げてもらおう」と知恵を絞ったのか、毒針を持たずに外見だけハチ類に似せたアブや甲虫(こうちゅう)、スカシバガなどが何種もいる。

 なかでも、足の花粉カゴに花粉をため込んだミツバチにそっくりなのが、オオモモブトスカシバである。飛びながら後ろ脚あしを「く」の字に曲げてセンダングサやヤブガラシの花の蜜を吸い、花から花へ移動する、その姿はミツバチそのものだ。

「飛んでいる姿は、専門家が見ても見分けがつきません。これこそオオモモブトスカシバが、その行動も含めてミツバチに擬態(ぎたい)していると私は考えています」と、スカシバの擬態を研究している名城大学農学部有田豊教授は話す。

 「ハナアブやオオスカシバなど、どことなくハチ類に似ている昆虫は多いのですが、それらがすべて擬態といえるのかは疑問です。擬態というストーリーを語るには、それなりの裏付けが欲しいですね。まず、具体的にどのハチに似たのかを特定できないと、擬態とはいいにくいですよ」
 オオモモブトスカシバは、日本の本州以南の里山や雑木林に生息する。「個体数は少なくないのに、なぜかめったにお目にかかれない。夏は成虫が一番多い時期なので、ぜひ見つけてセイヨウミツバチと比べて観察してください」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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