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サイエンス読み物

似姿違質「ヤマメ VS アマゴ」

Science Window 2009年初夏号(2009年、3巻2号 通巻26号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 釣り愛好家が「渓流魚(けいりゅうぎょ)の女王」と称するほど美しく風格のあるヤマメ(山女魚)。そのヤマメの分類は、少々複雑である。川で生まれてやがて海に下るサケの一種「サクラマス」と生物学的に同種で、川で生涯を完結するタイプを「ヤマメ」と呼ぶ。

 ヤマメは冷たい清水を好み、東日本以北からロシアのアムール川辺りを北限に生息する。一方、比較的水温の高い川に適応したヤマメの変型〔亜種(あしゅ)〕がアマゴ(甘子)である。厳密には、新潟県糸魚川(いといがわ)市から静岡県の安倍川に至る糸魚川静岡構造線を境に、東側にヤマメ、西側にアマゴがそれぞれ生息する。よく似た両者だが、体側に朱点が散りばめられているのがアマゴなのである。

 味はどちらも格別だが、アマゴの方がより身が締まっていてうまいといわれている。そのアマゴにも、川で生まれて海に下る、サツキマスやアマゴマスがある。

 井田齊・北里大学名誉教授は、「ヤマメとアマゴの違いは亜種レベルですから、同じ空間に入れれば交配は可能なんです」と話す。さらに、「心配なのは、一部の釣り人による人為的な放流です。進化途上で、今まさに種分化しようとしている両者を同じ川に放すのはいかがなものでしょうか。自然に反した遺伝的な汚染は、一度起きたら元には戻せませんからね」と、自然を思いやる。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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