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サイエンス読み物

似姿違質「ヤマザクラ VS ソメイヨシノ」

Science Window 2009年04月号(2009年、3巻1号 通巻25号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 華麗に春を告げて咲き、美しく散る桜。桜は日本人の心情を象徴する花であり、農作業開始の目安にもなってきた。全国に9種ほどの野生種が自生し、中でもヤマザクラは文化が栄えた近畿地方を中心に分布し、古くから観賞の対象とされてきた。野生種なので、花の大きさや色、花弁や葉の形などの個体差は大きい。例えば、隣接する株の満開時期が、一週間ほど違っていることもある。

 一方ソメイヨシノは、同じ遺伝子を持つ株を人為的に栽培しているため、どの木も形質はほぼ同じ。気象庁の開花宣言など基準とされる桜であり、花見や学校行事に欠かせない。その歴史は意外に浅く、江戸時代末期に江戸染井村(東京都豊島区)の植木屋から「吉野桜」の名で売り出され、接(つ)ぎ木(き)(枝を切りそこに別の枝を接ぐ)を繰り返して全国各地に広まった。オオシマザクラとエドヒガンのかけ合わせだといわれるが、原木は自然界で生まれた雑種だという説もある。「単純に両者をかけ合わせてもソメイヨシノそのものにはならないので、原木がどのように誕生したものか、本当のところはまだ分かっていません」と、大場秀章・東京大学名誉教授は話す。

 「人間を味方につけたソメイヨシノの繁栄はすごいですが、同じ形質を持つ雑種なので病気が流行(はや)ればたちどころに枯れるかもしれません」

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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