レベル
サイエンス読み物

似姿違質「オーロックス VS 黒毛和種」

Science Window 2009年01月号(2008年、2巻10号 通巻22号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 人に身近な動物が干支(えと)には多い。なかでも「丑(うし)」は人々に多くのものをもたらしている。おいしい肉や乳(ちち)、労働、衣料、肥料、信仰や祭り、さらに闘牛などの娯楽まで。人類にとってはなくてはならない家畜である。

 ウシでよく知られているのはホルスタイン、ジャージーなどの乳牛や、すき焼きやしゃぶしゃぶの材料となる松坂牛、神戸牛でおなじみの和牛(黒毛和種)だろう。これらは人の好みで育種改良を続け、人間がつくり上げた家畜である。その原種がオーロックスだ。大昔にユーラシア大陸各地の森林に生息していたオーロックスを人が飼い始めたのは今から約1万年前。長い年月をかけてさまざまな用途を担う家畜牛がつくられた。だが肝心のオーロックスは、欧州の王侯貴族などによる乱獲や森林伐採のため、17世紀初めに絶滅した。

 1932年にドイツの動物園長ヘック氏が、オーロックスの特徴を強く残す牛品種同士を交配してオーロックスを復元した。現在、ドイツの動物園で公開されているが、元来のものではないので、園長の名を取ってヘック・キャトルとも呼ばれている。

 「明治以降に肉の需要が増えて、高度に改良された日本の黒毛和種も、オーロックスの遺伝子を持っていますよ」と、岩手県奥州市「牛の博物館」学芸員の黒澤弥悦さんは話す。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

関連リンク

一覧に戻る