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サイエンス読み物

似姿違質 モンシロチョウ「オス VS メス」

Science Window 2008年04月号(2008年、2巻1号 通巻13号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 モンシロチョウの姿はオスもメスもよく似ている。特に後ろ翅(はね)は大きさも形も色も、まず区別がつかない。なのになぜオスは迷うことなくメスを見つけ、交尾することができるのか? モンシロチョウ行動学で知られる小原嘉明先生の研究はそんな疑問から始まった。

 観察すると、葉などに止まっているチョウが翅を閉じているか、または動かしているかで、飛んでいるチョウにサインを送っているように見えた。これらは自分がオスかメスか、未婚か既婚かをアピールする表現、つまり「モンシロチョウの“手旗信号”」ではないかと仮説を立てた。ところがこの考え方は実験でくつがえされ、飛んでいるオスは、“手旗信号”に惑わされることなく、翅を見ただけで、メスを認識できることが分かった。

 振り出しに戻って考え直し、そもそも人には見分けられない雄雌を、チョウが簡単に見分けられるのはなぜかと考えた。「ある日、翅の違いは人間には分からなくても、チョウが分かればいいのだと気づいて、人には見えず、チョウには見える色、つまり、紫外線を反射する色がメスの翅に隠されていることを突き止めたんです」

 チョウは人間が認識できない色の世界に生きている。「奥深い見事な生命を形作った自然の偉大さを、思い知らされました」と小原先生。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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