レベル
サイエンス読み物

似姿違質「ハシブトガラス VS ハシボソガラス」

Science Window 2007年10月号(2007年、1巻7号 通巻7号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 今でこそ嫌われ鳥の代表のようなカラスだが、童謡でも歌われているように、かつては故郷の風景に溶け込んだ、哀愁漂う鳥であった。よく見ると、黒いそのつぶらな瞳はなんとも愛らしい。

 日本で身近なカラスといえば、都市部のゴミ荒らしなどで問題視されるハシブトガラスと、人里近くに生息するハシボソガラスの2種である。どちらかといえば、ハシブトは肉食で、人間の食べ残しや野鳥の卵などが大好物。ハシボソは草食に近く、田畑の穀物やまかれた種などをノコノコ歩いてついばむ姿が印象的だが、虫なども食べるので、どちらも雑食である。

 昨今、東京や大阪などの大都市では、ゴミ出しなどのカラス対策に取り組んでおり、ハシブトの生息数はピーク時よりは減少したが、ハシボソに対する行政の取り組みはなく、生息数は把握できていない。

 どちらも人間にとって迷惑な存在になりかねないが、宇都宮大学のカラス博士、杉田昭栄教授は、「農村を荒らすハシボソガラスの増加の方が現在は深刻です。機械化された今の農業形態は、刈取り時に一斉に米がこぼれる、人の作業時間が減り監視もゆるむなど、カラスには天国です」と言う。
 増殖するカラスたちの鳴きは、人間がつくりだした文明社会への警鐘のようにも聞こえる。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

関連リンク

一覧に戻る