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サイエンス読み物
似姿違質「ジャコウアゲハ VS アゲハモドキ」
掲載日
2024.06.01
ジャコウアゲハは本州以南に生息する蝶である。道端や草地を低く飛び、夏場はヤブガラシなどの花の蜜を吸う。幼虫は有毒なウマノスズクサ類を食べるため、成虫も毒を持つことから鳥などに捕食されにくい。この蝶によく似た蛾がアゲハモドキだ。日本各地に分布し、幼虫は無毒なミズキの葉などを食べるので毒はない。毒のあるジャコウアゲハに似ていることが鳥の捕食から逃れるために有利に働いているという見方が一般的。有毒生物に似ることで生き延びる、いわゆる擬態の一例だという説である。
「ダーウィン流の考えに従えば、」と解説するのは生物学者の池田清彦・早稲田大学教授。「擬態というのは突然変異と自然選択で進化したということになっている。すなわち突然変異により、無毒な種のうちで少しでも有毒な種に似たものは、鳥に捕食される確率が減って個体数が増える。その繰り返しで、徐々に有毒な種に似てきたというわけだ。しかし、ジャコウアゲハのいない北海道のアゲハモドキもジャコウアゲハに似ているので、この2種の関係を擬態で説明するのは難しいのではないか」と疑問を投げかける。「むしろ羽の斑紋形成の機構がこの2種で似ているためと考えた方がよいのでは」と話す。
それにしても、自然界で生き抜く生物のメカニズムは奥が深い。
【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。
関連リンク
- Webマガジン|Science Window2007年08月号「特集 暗闇から何が見える?」
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