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サイエンス読み物

似姿違質「交雑育種カーネーション VS 遺伝子組み換え育種カーネーション」

Science Window 2007年05月号(2007年、1巻2号 通巻2号、2ページ)より再掲
掲載日
2024.06.01

 カーネーションは人間が育種をした栽培種である。原種は、地中海沿岸に自生していた一重咲きのナデシコの一種だとされる。花弁の数が50~60枚の八重咲きの今の形は、突然変異で出現したものを掛け合わせた結果。15世紀の絵画にすでに描かれているというから、その歴史は古い。母の日が近づくと花屋に並ぶ色とりどりのカーネーションは、長い年月をかけて交雑育種を繰り返し、今に至ったのである。

 カーネーションには、もともと花弁を青くする色素がないため、従来の育種法では紫や青の花色を生み出すことはできなかった。そこで十数年前より試みられてきたのが、遺伝子組み換えによる青色花の育種。この手法は、土壌細菌(アグロバクテリウム)が持つ、自分の遺伝子を他の細胞に組み込む能力を利用したもの。細菌の遺伝子の代わりに、花弁を青くする色素の遺伝子を組み込んだのだ。これまでになかった青色系のカーネーションが国内酒造メーカーを中心に世界に先駆けて作り出され、現在5品種を販売(細密画はそのなかの3品種)。

 「育種の進展により、花の利用場面はさらに広がるはず。遺伝子組み換え育種によって鮮やかな空色のカーネーションが生み出される日も近いかもしれませんね」と、農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所の柴田道夫氏は語る。

 【似姿違質(じしいしつ)】は創作四字熟語。「スガタはにれどもシツたがう」と読んでいただいてもかまいません。姿形が似通っていても分類上、または進化の過程が違うもの、人間にとっての好・不都合など、異なる価値を持つ2つの生物を対比してお見せしています。

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