探究・STEAMの現場から

学校や探究分野の枠を越え学び深め合う一日 埼玉県「探究活動生徒発表会」

後藤芽吹 / 科学技術振興機構 総務部ポータル課
掲載日
2026.03.19

 昨年12月25日、埼玉県教育委員会主催の「探究活動生徒発表会」が開催された。県内の公立高等学校65校の生徒が一堂に会し、それぞれの探究活動の成果を発表。他校の実践に触れ、学校外の人々と対話する中で自らの活動を見つめ直し、次の一歩を考えるきっかけを得られたようだ。取材では、生徒や教員の取り組みと成果に加え、主催者が考える発表会の役割と今後の展望も聞くことができた。見えてきたのは、生徒、教員、自治体が力を合わせ、「学際的な学び(=教科等横断的な学び)」を広げようと前向きに取り組む姿だ。

会場の日本薬科大学さいたまキャンパス(埼玉県伊奈町)には発表生徒や引率教員に加え大学や企業の関係者も訪れ、来場者は1100人を超えた
会場の日本薬科大学さいたまキャンパス(埼玉県伊奈町)には発表生徒や引率教員に加え大学や企業の関係者も訪れ、来場者は1100人を超えた

多彩なテーマが集まり活気あふれる発表会

 埼玉県は「学際的な学び」を推進するため、2023年度に「学・SAITAMAプロジェクト」を立ち上げた。発表会は同プロジェクトの一環で実施され、今年度で3回目。30校が新たに参加し、規模は拡大を続けている。工業高校や農業高校など専門高校の参加も多くなったことで、より多様な課題設定や研究手法が見られるようになった。

 今回の会場は埼玉県伊奈町にある日本薬科大学さいたまキャンパス。開会にあたり主催者を代表してあいさつに立った森孝博さん(県教育局県立学校部高校教育指導課長)は、本発表会が学校や探究するテーマを越えて学び合う場であると説明。その実現のために発表者への積極的な質問が重要な役割を果たすと述べ、「好奇心と少しの勇気をもって、ぜひ未来を開きましょう」と呼びかけて発表会がスタートした。

開会あいさつで発表会への期待を語る森さん
開会あいさつで発表会への期待を語る森さん

 今回は527人の生徒が「黒板消しの布素材と消えやすさの関係」などの身近な興味関心に基づいたテーマのほか、人工知能(AI)や3Dプリンターなど最新技術を用いた活動、イベントや商品の企画など、多岐にわたる活動の成果を披露。作成した工芸品や3Dモデルを展示したり、「推し活」に関するテーマにちなみライブでアーティストを応援する際に用いるペンライトでポスターを指し示したりと、伝え方にも工夫が見られる。

 発表会は一日を通して行われ、生徒と来場者の間で最後まで活発な意見交換が続いた。生徒たちは他校の発表に刺激を受けたり、大人の視点からの意見や専門的な知識に触れたりすることで、さらに探究を深めるためのモチベーションやヒントを得られたようだ。

発表会はテーマを文系・理系など特定の分野に限定せず、生徒が異なる分野にも触れられる場づくりが行われていた。似たテーマは近くに配置し、調査方法や着眼点を比べながら学び合えるようにしているという
発表会はテーマを文系・理系など特定の分野に限定せず、生徒が異なる分野にも触れられる場づくりが行われていた。似たテーマは近くに配置し、調査方法や着眼点を比べながら学び合えるようにしているという

対話から得られる刺激はさまざま

 生徒たちに探究活動の内容や参加した感想を聞いた。

 浦和高校1年生の男子生徒は、北本市内における各指定避難所までの経路や所要時間などの調査結果を発表した。指定の避難所ではなく最寄りの避難所を利用すれば15分以上早く到達できるケースも確認され、避難所の利用対象地域を見直す必要があるとの考えを示した。

 来場者からは「成果を市長に提出しては」との声もあり、想像以上の評価をもらえたことが今後の励みになったという。さらに、人口が多い地域では避難所の使用が制限されていることも知り、「日本の過疎・過密問題が自分の探究テーマと結びつき視野が広がった」と語った。

調査は北本市のJR高崎線東側エリアを対象に実施。避難時を再現するため、真夏に9キログラムの荷物を背負って歩き回った(提供:埼玉県立浦和高等学校)
調査は北本市のJR高崎線東側エリアを対象に実施。避難時を再現するため、真夏に9キログラムの荷物を背負って歩き回った(提供:埼玉県立浦和高等学校)

 所沢高校1年生の女子生徒は「ティッシュ配りで無双する方法」を探究中。この日は口頭発表に参加した。校内アンケートの結果として、そもそもティッシュを必要としない人や、手渡しに抵抗がある人が多かったと報告。また、インターネットで配布のコツを調べ、明るい声かけや笑顔、ターゲットに合わせた時間・場所の設定、宣伝内容を伝えることが効果的だとわかったという。

 一方で自らは、アンケート結果を踏まえ、自由に持ち帰れる形で置いておく方法や、お菓子など人々がよりほしがりそうなものを配ることも有効ではないかと考察。今後は、これらの工夫や方策を文化祭の宣伝で実践し、効果を検証する予定だ。聴衆からも配り方のアイデアを提案され、「学外での発表は初めてで緊張したが、新しいアイデアをもらえたのが良かった」と振り返った。

結果は配布数と宣伝したものへの反応率で評価する。ティッシュを配る人を「ティッシュ配リスト」と表現するなどユーモアを交えて発表していた
結果は配布数と宣伝したものへの反応率で評価する。ティッシュを配る人を「ティッシュ配リスト」と表現するなどユーモアを交えて発表していた

 このほかにも、他校の発表を聞くことで課題発見の着眼点や研究方法、発表の仕方などについて気づきがあったという声も多い。ある生徒は「他の発表に比べて自分はまだまだだと思ったので、もっと頑張りたい」と、今後の取り組みに更なる意欲を示した。

探究の「過程」も大きな財産に

 生徒たちの話を聞く中で、完成したレポートや作品にとどまらない、探究活動の成果も知ることができた。

 朝霞西高校2年生の女子生徒は、沖縄県の美ら海水族館のガイドブックを作成する過程で、デザインの重要性を実感。さらに、生徒の力作を校内にとどめておくのは惜しいと考えた担当教員の働きかけにより、完成したガイドブックが旅行会社の店頭や書店で展示、配布されることになった。成果が社会とつながった経験も後押しとなり、希望進路を大きく変えてデザインを学べる学校への進学を志すようになったという。

作成したガイドブックは、地元の書店でフリーペーパーと同じカテゴリで扱ってもらうことになった
作成したガイドブックは、地元の書店でフリーペーパーと同じカテゴリで扱ってもらうことになった

 また、ロボットコンテストに出場した大宮中央高校のグループは、準備の過程で思考やコミュニケーションのプロセスを学んだといい、「AI時代を生きていく力」を身につけたことを技術や結果以上の大きな成果と捉えていた。

 このように、知識の習得や答えを出すだけでなく、自分の関心を掘り下げて試行錯誤を重ねる過程や、他者と対話し学びが社会とつながった実感が、生徒たちにとって大きな財産となっている。

「粘り強く考え続けて」生徒たちにエール

 終了後の講評で木村真さん(同課教育指導幹)は、生徒たちが多様な視点で課題を見出した点、自分の言葉で説明していた点を高く評価。さらに「『思った』『感じた』を『考える』へ変えていくにはどうすれば良いか」と問いかけ、自分なりの課題意識を持ち続けることの大切さを伝えた。

閉会式で講評を述べる木村さん
閉会式で講評を述べる木村さん

 続いて県教育長の日吉亨さんが登壇。発表を終えた生徒たちをねぎらうとともに、探究活動への向き合い方について「簡単に『わかった』と思わず、もしかしたら違っているかもしれないと立ち止まり、粘り強く考えてほしい」と語った。またこうした姿勢が、より良い社会を作る力につながることを強調し、発表会を締めくくった。

閉会あいさつで考え続けることの大切さを生徒たちに伝える日吉さん
閉会あいさつで考え続けることの大切さを生徒たちに伝える日吉さん

広がる「学際的な学び」の輪

 発表会の担当者である野澤優太さん(同課指導主事)は、県として大規模な発表の場を設け、生徒同士の交流の場を作れたことに手応えを感じている。探究活動における一つの目標になるだけでなく、学校によって探究の進め方や強みが異なるからこそ、互いの工夫や考え方を見て持ち帰れることに意義があるという。

狭山工業高校の3Dモデルと川越女子高校のポスター発表。3D モデルや商品などの「モノ」を作ることに長けた学校もあれば、思考の過程を重視し理論を組み立てることに長けた学校もある。生徒だけでなく探究活動を担当する教員にとっても他校の事例を知る貴重な機会となっている
狭山工業高校の3Dモデルと川越女子高校のポスター発表。3D モデルや商品などの「モノ」を作ることに長けた学校もあれば、思考の過程を重視し理論を組み立てることに長けた学校もある。生徒だけでなく探究活動を担当する教員にとっても他校の事例を知る貴重な機会となっている

 運営にあたっては、探究活動のゴールではなく、自分の活動を見直し次につなげる場とすることを重視し、途中段階での参加も歓迎している。実際、前回の経験を活かして探究や発表準備を進め、今回の発表会で成長した姿を見せた生徒もいた。

 また、この取り組みをきっかけに、発表生徒を校内選考で決めるなど、学校側でも探究の質を高める工夫が広がりつつある。県としても、探究活動に活用できるポータルサイト「学・SAITAMAリサーチデータブック」を、埼玉新聞事業社と協力し、県内大学の支援を得て、昨年11月に開設。県内の研究者情報などを提供することで、学校での更なる取り組みを後押ししている。

 今後の発表会の展望として掲げるのは、大学や企業との連携だ。発表会の来場者からは、高校生との協働を望む声もある。将来的には、高校と大学や企業が出会い、互いの課題や知見を共有できる「展示会」のような場へ発展させたい考えだ。

 生徒が自ら問いを見出し、情報を整理・分析して解決へとつなげる探究活動は、従来の教科学習とは異なるアプローチが必要とされ、課題も少なくない。そのような中、生徒、教員、自治体が一丸となり、前向きに試行錯誤を重ねながら「学際的な学び」を広げようとする動きを見ることができた。

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