AI時代を生き抜く鍵は、データから課題を読み解き解決へ導く力— DXハイスクールの実践現場を取材!埼玉県立大宮高校
人工知能(AI)やデータ活用が当たり前になり、デジタル人材の育成が喫緊の課題となる中、文部科学省が2024年度から始めたのが「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」だ。本事業の採択校の一つである埼玉県立大宮高等学校(さいたま市)で2月10日、その取り組みを保護者に披露する発表会が開催された。データを読み解き、課題を見つけ、解決策を考える力を育む―。大宮高校流DXハイスクールの実践現場の取材から見えたのは、変化の激しい時代に培うべき力を明確に見定めた学びの在り方だ。

読み書きそろばん、そしてデータリテラシー
情報通信技術(ICT) を活用した文理横断・探究的な学びや、外部人材・大学との連携を通じてデジタル分野などを担う理系人材の育成を目的としたDXハイスクール。現在、全国で約1200校が採択され、理工系学部への進学者数増加やデジタル人材の裾野拡大が期待されている。
学校現場でのICT環境整備に加え、データを読み、問いを立て、分析し、他者に伝える。このプロセスを、教科の枠を超えて身につけることが本事業の本質だと語るのは大宮高校教頭の下山尚久さん。AIが急速に普及する中で下山さんは「『読み書きそろばん』に続く新たな基礎教養として、データリテラシーの育成がこれからの教育には欠かせない」と考えている。

データセットを用い限られたコマ数で分析
大宮高校では理数科の1年生を対象に「データの取り扱いの基本の『き』」を学ぶ探究活動が行われている。活用するのは企業の現場でも使われているデータ分析ツールTableau(タブロー)。蓄積された膨大なデータを集約、可視化、分析し、意思決定をサポートするBI(ビジネスインテリジェンス)ツールだ。ドラッグ&ドロップの簡単な操作でグラフやダッシュボードを作成でき、比較的簡単に使うことができるという。
生徒たちはツールの操作方法の研修を受けた後、10グループに分かれ、それぞれ天体、気象、都道府県統計、健康に関するオープンデータセットの中から、どのようなテーマで考察するのか、そのためにどのデータを使用するのかを決定。ツールを使いながら可視化し、分析結果をまとめていく。週のうち2コマしかない探究活動の授業時間の中で試行錯誤を続けて取り組み、今回はその成果をポスターセッション形式で発表した。

データから「ストーリー」を読み取る
いくつかの事例を紹介したい。
あるグループは心臓病に関するデータセットをもとに、どのような要因が心臓病の発症につながっているかを調べた。生活習慣や年齢、性別、喫煙習慣、教育レベルといった項目との相関を可視化して考察。グラフを年齢別に色分けすると、年齢が上がるにつれて心臓病のリスクが高まる傾向が明確に現れていた。

その他、米航空宇宙局(NASA)の太陽系外惑星に関するデータを用い、その発見方法と年代の関係性を調べたグループや、日本の統計センターの気象データからコメの収量と気象の関連を分析したグループなど、多彩なテーマが並んだ。発表の中で共通していたのは、いかに「データからストーリーを読み取ったか」だ。前者の場合、技術の進歩により太陽系外惑星の発見数が増加した一方で、観測法ごとの向き不向きによってデータの偏りが示唆されることを読み取った。後者もさまざまなデータを比較する中で、気温と積雪量がコメの収量との関連が最も深いことを見出した。

生徒たちからは「相関性がグラフによって可視化できたときの驚き、そしてやりがいを感じた」「データを分析して解を導くのはゲームに近い面白さがある」という声があがる一方で、「限られたデータから仮説を立てるのが難しかった」との見方も。今回はあらかじめ用意されたデータセットのみを用いたことから、今後は自分たちでデータを探して「もっと深く分析してみたい」とも言う。そんな生徒たちの感想から、データ分析が単なる作業ではなく、思考を伴う「発見のプロセス」として受け止められていることが感じられた。
文系理系を問わず必要なデータリテラシー
発表会の様子からも分かるように探究授業は、これからのAI時代に必要な「データからの問いの立て方」、そして「データをもとに何を考えるか」といった着眼点を鍛える一連の学びを重視していることが大きな特徴だ。1年生の「探究活動」で自らテーマを設定し、データを分析して発表する経験を通じて、2年生の「理数探究」でさらに探究の質を高め、学びをつなげている。
「これまで理数科では、体系的なデータ処理の扱いが十分ではありませんでした。1年生のうちに基本的な扱い方を学んでおくことは、2年生の理数探究に向けた大きな土台になります」。下山さんはDXハイスクール採択を受けた取り組みの狙いをそう述べる。
対話を通じてメタ認知を育む
大宮高校ではDXハイスクールの補助金だけに依存しないことが重要との考えから、高額な機器や外部人材に頼るのではなく、自分たちが中長期的に継続できる形を重視してきた。そのためにまず着手したのは、生徒たちが意見を出し合いやすい環境の整備だ。Wi-Fi(ワイファイ)環境や電子黒板を導入し、グループワークしやすい机や椅子も設置。自由闊達に学びを深める空間をつくった。

今回の発表会もやまぼうしホールで行われた。「基本の『き』」を学んだ段階ながら発表会を設けた意図について下山さんは「AIの時代になり、世の中には統計データがあふれています。これからはそのデータをどう組み合わせ、どんな問いを立て、どう解決策につなげ、他者と共有していくか。対話を通じてその経験を得ることで、自分の思考や行動を客観視する『メタ認知』能力を育むことにもなります」と説明する。
データを扱う力の重要性は理系、文系を問わないと下山さんは考えている。そこで必要性を増すのが、データを土台にした議論だ。そうした考えから大宮高校では今後、普通科の総合的な探究の時間でもデータリテラシーの育成を進め、その質を高めていくという。
関連リンク
- 文部科学省「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」
- 埼玉県立大宮高等学校「理数科日誌」